「舞台裏の仲間たち」 22~24
良が、才気煥発、好奇心もすこぶる旺盛と言う性格の持ち主のため、
彼女が信州の豪農の嫁という器に、とてもおさまりきれなかった、
というのも、おのずとわかるような気もします。
そこまで、黒光の少女時代のことを語ってきたおばあちゃんが
ふと、茜の顔をまじまじと見つめなおしました。
「そういえばあなた、
いえ茜さん。
最初にお会いした時からず~と、
どことなく、どなたかに似ていらっしゃると思っていたら、
今、お話をし始めたばかりの黒光の雰囲気に、よく似てらっしゃいますね。
ほんとに・・・やっと、それを思い出しました。」
「私が、ですか・・・」
「どことなく理知的ですし、芯も強そうです。
なによりも、いつでも、まっすぐに見つめようとしている、
その視線が、とても綺麗です。」
「そんなぁ・・・
私にはとても心外な話しです。
第一私は、それほど綺麗でもありませんし、自分に自信も持てません。
姉が一人おりますが、そちらは器量良しで、
性格も見た目も、私となんか比べようがありません。
姉は女としても、申し分のないすべてのものを身につけているようです。
姉と比べられるのが嫌で、私はいつも姉の背中に
隠れておりました。」
「自分を知っておられる人は、充分に美しい人です。
茜さんは、ご自分の内面に秘めたたくさんの美しさを
しっかりとお持ちのようです。
私の目から見ても存分に、
とてもチャーミングに見えます。」
「とんでもありません・・・
今の私は、自分自身に自信が持てないあまりに、
もう一歩、どうしても前に足を踏み出すことが出来ずにいます。
現に今だって、まだ二の足を踏んで躊躇をしたままです。
ことに、あの人の前に立つと、特にです。」
「そうなの・・・
やっぱり。
何かありそうだなと思って、ず~と拝見しておりましたが、
やはり何かのお悩みがあったようですね。
よかったら、心を許して私に話してみませんか、
長い黒光の話を始める前に。」
おばあちゃんが、茜のグラスに
2杯目のワインを注いでくれました。
「呑めるんでしょう」と、細い目がさらに細くなりました。
「実は、(今付き合っている)あの人のことは、
10年も前から大好きでした。
私は姉とは一つ違いで、あの人は姉の同級生のひとりです。
あの人も姉のほうには関心が有ったようですが、
私はまったく相手にされず、いつも子供扱いをされていました。
私が勝手に片思いをしていただけの話で、事実もまた
まったくその通りでした。
半年ほど前に偶然に再会をしましたが
その時も、本当はあの人に素直に顔向けのできる事態では
ありませんでした。
実は・・・その時に私は、許されない妊娠をしていました。
しかも父親となるべき男性とは、行き違いの末に、
ついに、別れてしまった直後でした。」
作品名:「舞台裏の仲間たち」 22~24 作家名:落合順平