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「舞台裏の仲間たち」 19~21

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 「同好の士と言えば、聞こえはよいのでしょうが
 下手の横好きと、暇を持て余している年寄りが適当に
 時間つぶしに書いているだけです。」

 たしかに見栄えはそれなりでしたが、
ただ熱心に丁寧に描かれていることだけは、一目見た時から鮮明でした。


 「碌山と黒光の出あいも、
 安曇野でのスケッチからはじまりました。
 今頃は、ばあさんもそんな調子で
 黒光のはなしを始めている頃だろうと思います。
 悪かったねぇ、うちのばあさんの我がままにつき合ってもらって。
 君たちにも色々と都合があったと思いますが。」

 「いいえ、私たちのほうが、
 かえって押しかけて甘えてしまっているようです。
 こちらのほうが、心苦しいのですが・・・。」


 「そんな風に言ってもらえると、
 気が楽になって、私も肩の荷がおろせます。
 まぁ、一杯いきましょう。
 安曇野の水は、本物です、
 本物の水は、本物の米を作り、
 本物の米は、本物の酒を生み出すそうです。
 と、言うのが此方の女将の持論です。
 まぁ、とりあえず一杯いきましょう、それから
 ゆっくりと、男同士で語らいますか。」


 女将が持って来てくれた自慢の地酒を注いでもらいました。
軽く盃を合わせて乾杯をしたあとに、それを一気に飲み干しました。
熱い液体が喉をながれ落ち、それが胸元を過ぎたあたりからさらに熱を帯びて
胃の腑まで流れ下って行くのがよくわかりました。
それはめずらしく、今では貴重な存在ともいえる、
本格的な味わいを含んだ日本酒の辛口(からくち)でした。


 こんな酒を、どこかで飲んだ記憶がありました。
思いだしたのは、オヤジが好きだった、あの辛口の日本酒でした。
10代の頃で、オヤジが亡くなる2年ほど前、
一度だけオヤジと差し向かいで日本酒を飲んだことがありました。
その時に呑んだ日本酒の味が、ちょうどこんな感じで
辛口の口当たりでした。

 あの時のオヤジは、なにを伝えたくて、
未成年の私と、わざわざ酒を酌み交わしたのでしょうか・・・
ふと、そんな過去のことが頭をよぎりました。

 「どうかされましたか?」

 おじいちゃんの声に、あわてて我にかえりました。
今飲んでいるのはオヤジではなく、
今朝会ったばかりの安曇野の、わさび畑の人の良いおじいちゃんでした。
言われるままに2杯目を注いでもらい、
それも一口で、また一気に飲み干しいてしまいました。

(22)へつづく