ACT ARME2 訪問者と落し物
「本人に聞くほうが一番手っ取り早いでしょう。ねぇ、ルインさん?」
鋭い視線をルインに突き刺すツェリライ。
「い、いや〜。なんのことでせう?ワタクシにはさっぱりわかりません。」
その場に流れる空気に居たたまれず、顔を背け、とぼけるルイン。
「とぼけても無駄です。僕があれこれさせられる前に、あなたが自治所(市役所みたいなもの)に足を運んでいたことは分かっているんです。」
「そ、それで?」
「それで、あなたが開業許可証を受け取るために自治所を訪れたことも分かっています。」
「・・・・・・・・」
「そして、あなたがそれを受け取るために、幾らかの書類に記載しなければならないことを知り、即時撤退したことも判明しています。」
「よ、よく知ってるね。」
「幸いにも、受付の方があなたが来た時と同じ方のようでしてね。運良く話を聞けたんですよ。」
「へ〜。それは良かったねえ。」
何とかして空とぼけをしようとするが、限界というものがある。
「素直に謝ったほうがいいんじゃない。」
アコにもそう促され、おとなしく自分に否を感じたルインは、素直に、今度は深々と頭を下げた。
「大変お手数をおかけし、申し訳ございませんでした。」
その様子を見たツェリライは、お怒りモードは解除させたようだが、今度はお説教モードを指導させたようだ。
「全く。あなたは開業したという自覚はないんですか?そんな調子で資金繰りはどうするつもりだったんですか?問題はそこだけにとどまりませんよ。万一あなたが誰かを雇う、契約を結ぶなんてなった時には、今回とは比べ物にならないほどの手続きを踏まなければならないケースも存在するんです。相手が顔見知りならいざ知らず、まかりなりにもあなたを信用した―――――――――――――」
長い長いご高説が始まってしまった。いつもなら受話器を脇に置いて聞き流すところだが、今回は直接面と向かって話をしている。
何より、今回こんなことになる原因を作ったのは紛れもなく自分。
おとなしくバツを受け入れる他ないか・・・・
そう思った矢先だった。
ピンポーン。という軽快な呼び鈴の音が聞こえ、それにルインが即座に飛びついた。
「あ、お客さんが来たよお迎えに行かなくちゃ!!!」
今までかつてないほどの早口で喋ったルインは、そのまま流れるように玄関へと飛んで行った。
「逃げられちゃったわね。」
「本当に、逃げ足の速い人です。」
「ささっ、どーぞどーぞ。こちらに座ってくださいな。」
超上機嫌のルインに引っ張られるように招かれた、記念すべき最初の依頼者は、前髪が若干長めで、内向的というと言い過ぎな気がするが、少なくとも外交的には見えないタイプの青年だった。
手には長い棒を握っている。棒術使いのようである。
「さて、要件はなんでしょう?」
相手がルインのテンションについていけてないことなどお構いなく、話をスタートさせる。相手もそれに若干の戸惑いを覚えながらも、用件を切り出した。
「あ、えっと。ひとつ探し出してほしいものがあるんです。」
「・・・・・・・・・・」
依頼内容を聞いたルインは、とたんに静かになった。
(あれ?なんかさっきと比べて急激にテンションが下がってる!?)
先ほどまでと打って変わって静かになったルインは話を続ける。
「えーっと、それで?その探し物っていうのは何ですか?」
明らかにやる気を半減以下にさせているルインに、後ろからゲンコツが落とされた。
「あいったぁ。何するんだよ。」
「何するんだよじゃない。あんた、自分が期待していたのと違う依頼が来たからって、あからさまにテンション落とさないの。」
「へ〜い。」
間延びした返事を返す。その様子を見ていた依頼者は、若干心配そうに聞いてくる。
「ここって、依頼をこなしてくれる万能屋でしたよね?」
「ええ、間違いありませんよ。ただそこにいる所長が気まぐれでテンションを上げ下げしているだけです。」
その返事を聞いて、さらに不安そうに質問を重ねてくる。
「ここって確か開業一カ月は経っているんですよね?」
「ええ、その通りです。ただ、依頼者はあなたが初めてですけどね。」
「え?」
「開業してから早一ヶ月。ここは早々に開店休業状態が続いていましたから。」
「・・・・・・・・・・・・」
ものすごい不穏な空気が漂い始める。その空気を察したツェリライは、救済の手を差し伸べる。
「ご不安でしたら、帰っていただいてかまいませんよ。依頼者が依頼する前に不安をあおるような所長じゃ、心配でしょう。」
この発言に、ルインが食ってかかる。
「ちょっとちょっと!なんでせっかく来てくれたお客さんを返そうとしてるんだよ?お客さんにも失礼じゃないか!」
至極まっとうな意見。だがこいつには言われたくない。
「もしそう考えているのなら、少しは真面目にやってください。」
その場で言い合いを始めた二人を見ながら冷や汗を流している依頼者に、アコが救済の手を差し伸べる。
「あ、帰って大丈夫ですよ〜。あれしばらく続くでしょうし。」
冷や汗を流し続ける依頼者は、それでも首を横に振った。
「いや、ここを選んできたのはボクですし。まあ大丈夫です。」
その言葉を聞いたアコは、すぐさま水かけ輪を強制的に中断させた。
「あんたたち!何依頼者に気を遣わせてんのよ!!」
「えーと、それで。依頼内容は無くしたものを探すということでよかったんですよね?」
頭に見事なこぶを作りだしているルインが聞く。
「は、はい。そうです。」
「それで、無くしたものというのは?」
「まずその前に名前を聞くべきではないでしょうか?」
ルインと同じく頭にこぶを作っているツェリライが、不機嫌そうに口をはさむ。
「ああそうだね。あなたの名前は?」
「レックです。」
数分後。
「つまり、レックは大切にしているリストバンドを、この町のどこかでなくして、それを探し出したいと。」
いきなりタメ口になったルインに、戸惑いながらもレックは肯定する。
「え、ええ。まあそういうことです。」
「ルインさん。依頼者に対してため語を使うとはどういうことですか?」
「え?いや、年聞いたら僕らと同年代だったからいいかなと思って。」
「良くないでしょう。」
ツェリライの突っ込みは、無視。
「それにしても。風来坊やってるとは驚いたね。」
「まあそうですね。よくそう言われます。」
それについてはツェリライも同じ気持ちのようだ。
「この町は移住してきた方が比較的多いとはいえ、風来坊をやっている方は僕の知りあいの中にはいませんね。何か旅の目的があるんですか?」
この質問に対して、一瞬だがレックの顔が陰った。
だが、すぐにそれが消えて答える。
「いや、特にないですよ。あてのない気まま旅ですから。」
その反応に、若干の興味を示したルインとツェリライ(アコは気付いたかどうか怪しい)だが、依頼とは関係なさそうだったので、そのことには触れずにおく。
「それで、大体どこあたりで無くしたとか、心当たりはないの?」
その質問に首を振るレック。
「心当たりのある場所はくまなく探したけど、見つかりませんでした。」
「治安支所(交番ぽい場所)に落し物届は?」
「三日前に出したけど、返事は来ないですね。」
作品名:ACT ARME2 訪問者と落し物 作家名:平内 丈