And Then ~すべては、そこから…~
徳野は決心をした。
自分に都合のいい結末を見つけたのだから。
だからこうして、自分はあすかの掌を握り締め微笑んでいる。
ずっと触れたかったあすかの柔らかな髪にも触れている。
ずっと、ひた隠しにしてきた本性が、ふと顔を出した瞬間なのだろう。
もう一人の残酷な自分。仕事モードというのは単なる言い訳で、もしかしたらこれが本性なのかもしれない。
くだらない情なんかにほだされない、本来の自分がここに―――。
≪私達、他人から見たらどんなふうに見えると思う?≫
もし、またあすかにそう聞かれたら、きっと徳野はこう答えるだろう。
勿論、恋人同士だよ、と笑顔で。
今日だけは恋人同士、という言い訳。
だからきっと、この柔らかな掌を離したとたん、自分は何事もなかったように元の世界に戻っていくのだろう。
地味で冴えない自分という、仮の姿に。傷つきたくないから。その方がラクだから。
「行こうか」
そう言って、徳野はあすかに微笑んでみせた。
うん……。とあすかが小さく頷いた。
紳士的にあすかをエスコートする徳野を、夕日があと押しするかのように長い影を二つ作り出す。
そしてそれは、いつまでもいつまでも消えずにそこに落ちたままだった。
人は誰でも夢を見たいもの。
人は誰でも叶わない夢を追ってみたいもの。
どんな人だって、その権利はあるのだから。
徳野は、たった今その権利を得たのだ。
行き着く先は、天国なのか、それとも地獄なのかは分からない。
それに、他人が地獄だと思っていても、本人はそれを天国と思うかもしれない。
勿論、天国を地獄に思うかもしれない。
けれど、すべてはそこから始まるのだろう―――。
作品名:And Then ~すべては、そこから…~ 作家名:ミホ