ゾンビ・ウォーク
俺は反射的に走り出した。走っていると、スマホの警告音が小さくなり、やがて鳴り止んだ。俺は立ち止まると、電柱によりかかって息を整えながら、激しく自問自答した。
―― 今のはなんなんだ? 映画で見るゾンビそのものじゃないか。
―― まさか、ゲームが現実化しているなんて、そんなバカなことはないよな。
そのとき、背後に誰かが近づく気配を感じた。俺はぎょっとして振り向くと、犬を連れた老人が俺の後ろを通り過ぎるところだった。老人と目が合ってしまった。不審者を見るような目だ。確かに、今の俺はかなり不審に見えるだろう。
ほっとした俺は改めてスマホを見た。画面には、4匹のゾンビが蠢いていた。そのとき、スマホが震えると同時に、あのいやな音が鳴った。画面の俺のすぐそばに、赤い人影が現れた。俺は焦ってあたりを見回した。
先ほど俺の後ろを通り過ぎた老人の後ろ姿が見えた。老人の体が揺れている。俺はその背中を凝視した。スマホから、ゾンビ接近の警告音が鳴り始めた。老人がゆっくりと振り向く。すっかり鉛色に変色した顔は、完全におぞましいゾンビの顔と化していた。
俺は腰を抜かさんばかりに驚いた。そのとたんに、老人が連れていた犬が吠えたてた。俺があわてて犬に目を移すと、その犬は体毛がぼさぼさでところどころはげ落ち、さらに胸の皮が剥がれて垂れ落ち、肋骨が見えていた。
俺は声にならない叫び声を上げながら、その場から走り出した。
作品名:ゾンビ・ウォーク 作家名:sirius2014