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整然なる葬儀

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 それをぼんやりと見ている時に、僕が妻を送る時がきた。僕は席を立ち、妻の方にお辞儀をした。そして設置されたマイクに向かい僕は語り始めた。語り終え、弔問客に挨拶をしたその時だった。仲間の一人が大きな声で僕に叫んだ。

 「綺麗にまとめるなよ。お前が殺したんだろう」

 僕はうなだれた。そして弔問客全員を見渡し、妻の写真に一礼した。そして弔問客をぼんやりと見ていた。遠くで義母が勇太を外に連れだしているのが見えた。そして僕は、話しだした。

 
 僕は妻を殺した。妻を殺した経緯は妻に頼まれた事が発端だった。僕は殺してないかもしれない。手助けした。助からない事は分かっていた。殺した。妻の容体が急変したあと、一命を取り留めた彼女は僕にお願いを言うようになった。彼女はまず自分の死期が近い事を言った。そして死ぬのが怖い事を僕に言った。でもお迎えに来られて怖くない場所がある事を教えてくれた。私を、海で死なせてと。私が子供の頃、父が亡くなった海なら怖がらずに旅立てるの。
 僕は妻に初めて言われた時は、そんな事は自分にはできないし、快方に向かうように頑張ろうと妻を慰めた。その頃はきつい薬が処方されていたから、きっと薬のせいで落ち込んでいるのだろうと思っていた。しかし妻はその後、しきりに口に出すようになった。

 時には強く。また弱々しく。幾度も、幾度も。

 僕もそれを聞くたびに妻をなだめた。疲れても、寝なくても、その頃は営業職をいい事によく仕事中に寝ていたと思う。絶対に受け入れない僕に諦めたようで、しかし死ぬ前に海を見せて欲しいと言った。僕は主治医に聞いて外泊の許可がでるなら連れて行くと言った。しかしきちんと病院に帰ってくる事を付け加えた。主治医は外泊出るのは、一泊なら許可できる事を教えてくれた。僕は妻に伝えた。妻は喜んだ。それからは、生気が戻り、旅行の日を心待ちにするようになった。僕も嬉しくなってきた。そして旅行に花を添えれたらと、妻に洋服のギフトカタログをプレゼントした。
 入院してからは特に家計を気にしだした、妻に僕は上司から貰ったと嘘をついて渡した。このプレゼントは的を射たようで、とても子供のように喜んでいた。看護士さんや女性の患者友達を見つけては旅行に行く事を話し、カタログを見て貰ってはどの服がいいかをたずねていた。そうやって妻が選んだのはシンプルな白いワンピースだった。一緒にギフトセンターへのハガキを出しにいった。そして旅行の日、主治医から説明を受けた薬や書類を受け取り、妻と僕とで旅行に出かけた。
 ずっと病院にいたせいか、全てが真新しく見えるようで、口数少なく、嬉しそうに風景を眺めていた。旅館につき、荷物を部屋に置き、主治医から渡された薬や書類は金庫に閉まった。そして二人でお茶で一服して海を見に行く事にした。旅館の仲居さんに教えて貰ったとっておきの場所だ。カメラを首に引っ掛け車椅子を押してその場所に行くと、見事に綺麗な海が広がっていた。太陽が光を持たし、青々とした海が広がっていた。僕は妻と一緒に興奮しずっと眺めていた。
 そうして一通り眺めると出会った頃の事やこの先の子供の将来の事などを話した。将来の話をしていた時は、胸が痛んだが、悟られないように努めて明るくしゃべった。話が一段落して妻は飽きずに海を眺めていた。僕は妻を見ていた。眺めているうちに居た堪れない気持ちになってきた。僕は腰を上げて帰ろうかと尋ねた。そして妻は僕に言った。私を海に向かって押してあなたの手で殺してと、その言葉を聞いて何故か僕は車椅子を傾斜の所までもっていき、手を離した。介護疲れだったかも知れない。車椅子はゆっくりと転がり加速した。
 そして、あっけなく水平線に、飲み込まれた。僕は自分を取り戻した。旅館に急いで走った。その間、息子、勇太の事を思った。そして僕は警察の人に目を離した時に車椅子が転がり出したと言った。気付いて追いかけ出した時は、崖から落ちる直前だったと。


 話し終えた時、葬儀には不向きなテンポの早い音楽が鳴り出した。その時だった。棺桶の蓋が垂直に飛んだ。正確にはワイヤーで上から引っ張られたのだが。そして素敵なメイクをした妻が生き返った。生き返った時、僕に笑みを浮かべ、弔問客が最前列の真ん中に行った。みんな椅子をのけて魂が抜けたように立っていた。もちろん顔にはYOKO’Sグレイのファンデーションを塗りたくっていた。そして踊り出した。


「スリラーー」


 お義父様が僕に言った。

 「よく分からないけど、私は海で死ぬ必要があるのかね。」

 会場から笑いが起きた。

 エピローグ

 劇団員同士の僕達は出会って結婚した。そうして息子、勇太を授かった。両方、アルバイトの生活で収入が少なかった為、妻の実家に住ませてもらっていたのだが、勇太が幼稚園に入ると、状況が少しずづ変わり出した。孫の将来が心配に思った義父が、きちんとした職を見つけるように言いだした。しかし、芽が出ていない劇団員だが、もう少しの時期、演劇を続けたいと考えていた。そんな事を考えている時に、劇団にある募集が回ってきた。

 冠婚葬祭業の企業からで、昨今の不況で式の数をなんとか増やしたいらしい。会議で生前葬をクローズアップし、葬儀と言っても、楽しく和やかなイメージでパーティーとして捉えれるように生前葬を提案してほしいというものだった。最優秀には賞金が贈呈される。僕は飛びついた。少しでも妻の実家にお金を入れるのと、自分の演技を見せ、理解を少しでもしてもらい、猶予が頂けたらと思っていた。

 しかし、結果は落選。演技の方も、不評だった。ミステリー仕掛けにして、殺したのが失敗だったかもしれない。その後、妻の父は、不機嫌だった。すぐ感情が、顔にでる人で僕に怒っているのは明らかだった。僕は必死で仕事を探した。仕事がみつかり、報告をして、黙々と働きながら徐々に許してもらった。

 そうして、月日が流れた。勇太も大きくなり、嫁をもらい家庭を築き、幸せな生活を送っている。

 僕は結局、役者で食べていく夢は叶わなかった。しかし、夢が叶わなかった人生にとても満足している。勤め出した頃は、いつも役者になるチャンスを窺っていたのだけれど。自分を育ててくれる上司や話しあえる同僚に囲まれていると、徐々ではあるが仕事に熱が入り楽しく感じだした。もちろん一番の原動力は勇太を育てる為だったけど。

 始まりと終わりしか書かれていない台本。初めの言葉はbornそして最後にhappy end。台本を空に向けるとその厚さはスカイツリーの高さを簡単に超えてしまう。・ 
 

作品名:整然なる葬儀 作家名:トレジャー