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エイユウの話 ~秋~

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 キサカがロッカーから着替えを取り出す様子をしばらく見た。そして答えのわかりきった質問をぶつける。
「キサカは自分に敵意のある人に謝れる?」
「敵意はないだろ。ま、謝りづらいのは理解できるけど」
「彼女の怒ったときの視線は、敵意に近いものがあるよ」
 キースは失笑すると、近くの流しで手を洗った。ポケットからハンカチを取り出す。元気が少し出た。目深にかぶっていた帽子を、被り直す。
「それより君は早く着替えないと」
「わーってるよ」
 屋台は製作・販売側と宣伝側で分かれている。今日は宣伝側での仕事なので、用意された衣装を着ることが義務付けられていた。キサカが仕事としては派手な「宣伝側」であることを意外に思った人も多いだろうが、残念ながら仕事は交代制で、二日間働く彼らは両方しなくてはいけないのである。
 衣装は全て手製のもので、今回売るザルピッツが作られた地方の服装を真似たものだ。民族衣装という言葉が似合うそれを着た姿は、まるで仮装大会のようだった。もうすでにキサカは苦手そうである。着たばかりの服をひっぱって柄を見ながら、解りやすく顔をしかめた。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷