エイユウの話 ~秋~
「何してくれてんだ、あの馬鹿は」
驚いて振り返ると、キサカが闘技場のほうをあきれた顔で睨んでいた。
「おはよう、来ないのかと思ったよ」
「来たほうが仕事もサボれるからな」
歯を見せてニッと笑う。なんとも彼らしい理由だ。そんな中、荒い息と共にラジィが姿を現した。肩で息をしていて、ここまで来ることの大変さがうかがえる。髪の毛もぼさぼさだ。さらに怒りにフルフル震えている。怒る前兆だと一目でわかったキースとアウリーが、身を硬くした。怒号に耐えるためだ。
「あんたねぇ・・・、何さっさと行ってくれちゃってんのよ!」
案の定、キサカを怒鳴りつけた。しかし、怒られた方はまったく懲りていない。反省するどころか、毅然として答えた。
「遅いやつに合わせるのは嫌いでな」
「遅い速いの問題じゃないでしょ!」
「俺にとってはそういう問題」
「・・・いつか絶対に置いてってやるわ」
そう決意に燃えるのには目もくれず、舌先三寸で激励した。
「せいぜい頑張れ」
「余裕言ってられんのも今のうちよ!」
その言葉は既に敗者を思わせた。そんな彼女も緑の次高術師のため、参加が義務付けられている。つまり、キース対ラジィなんていう最悪の事態も考えられるのだ。
それに気付いたアウリーは、静かに秋祭りまでに仲直りさせることを決心した。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷