Neverending Story
「浩ちゃん?もう帰らないと…。船に乗り遅れちゃう」
ボーっとしていた高瀬は、唯に話し掛けられ我に返る。
「えっ?もうそんな時間?」
「もう夕方だよ。ほら、陽が沈みかけてる」
そう言って、唯が夕陽を指差した。
「本当だ。もうこんな時間か…」
高瀬は立ち上がり、服に付いた砂を払った。
そして、肺一杯に潮風を吸い込んだ。
懐かしい匂いや風景は、数十年経った今でも変わらずにここにある。
ただ変わってしまったのは自分だけ。
心はあの頃のまま。
なのに、肉体だけは老いていく。
肉体の年齢だけが歳を取るばかりで、けれど精神年齢はどうやっても大人にはなりきれない。
自分は、このまま歳を取っていくのだろうか、と高瀬は思った。
躰と心の年齢の差が埋まらないまま、ちぐはぐなまま生きていくのだろう、と。
「浩ちゃん、行こう?」
そう言って、唯が高瀬の手を繋いだ。
ここに来る時と同じように、帰りもこうして手を繋ぐ。
そのなんでもない行為が、高瀬を複雑なものにさせていく。
心は決まっている。
そう、心は決まっている。
なのに、どうして―――。
作品名:Neverending Story 作家名:ミホ