好きにはなれないの?
昇降口で靴を履き替えている時、肩を軽く叩かれた。振り返ると、親友の彩香が笑いながら立っていた。
「おはよー」
「おはよう」
「どうしたの、今日元気ないっぽいけど」
「ん……何でもない」
「そう?」
心配そうな顔を向けてくれる親友の顔を直視しづらくて目をそらした。
もちろん、元気がないことに理由がないわけがない。しかし、それを口に出したことはなかった。
私はかなりネガティブな性格だ。
自分のことが嫌いで、何もかもを疑い出すと止まらなくて……。そう、隣にいる親友のことさえ疑っているのだ。その優しさには何か裏があるのではないかと。
そんなこと、一体どの口を使って、誰に向けていえばいいと言うのか。
寝不足なだけ、と嘘でもつけば良かったのかもしれない。あまり上手に嘘をつけないので見破られるだけだろうけど。
「今日の梨奈さんは本当に元気がないなぁ」
元気出してー、と彩香が言う。
その笑顔を疑う自分が恥ずかしくなって、うつむいたまま静かにうなずきを返した。
今日の気分はなだらかに下降気味。
朝の出来事で決定づけられたか。
「お昼食べよっ」
彩香がお弁当を手に私の傍に座った。
彼女の傍にいると安心できる。でも、そんな自分をあざ笑う自分が心のどこかにいるのだ。何もかもをひどく客観的に、皮肉的に眺める自分が心の隅から囁く。
心から信頼できてない相手の傍なのに安心してるって、何か滑稽。
やめろ黙れ、と覇気のない声で返した。……返さない方が良かったかもしれない。
帰りの電車でも彩香は私を励ましてくれた。
今度一緒に遊び行こうよ、と言う。
「嫌なこと全部忘れて遊ぶの、楽しいじゃん?」
その明るさが欲しいと思った。
ほんのちょっとでいい、他人を信じられる心があれば……。
なんて、ないものねだり。
また自分のことを皮肉った。ああもう、こんなにどうしようもない自分なんか、
「また何か考え込んでるなー?」
いまいち取り留めのない思考は彩香によって中断された。
「しずみこむな、ってのっ」
ぺちぺち私の額をはたくその仕草がおかしくて、くすりと笑った。
私の笑顔を見て、彩香もまた笑顔になった。本当にころころと表情が変わる子だ。
晴れ晴れとしてきた心の隅で、あのシニカルな自分がまた囁いた。
ふーん、そう、幸せなんだ。良かったね。
誰もいない家に帰った途端、私は理由の分からない罪悪感にさいなまれた。
うぅ、あぁ、とうめき声を上げながら、自分のベッドの上で泣きじゃくる。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
何に対して謝っているのかも分からないが、ただ自分の中で膨れ上がる罪悪感をやり過ごすにはこうするしかなかった。
何十分も大泣きして過ごした後、私は泣き疲れてそのまま眠りに落ちた。
「おはよー」
「おはよう」
「どうしたの、今日元気ないっぽいけど」
「ん……何でもない」
「そう?」
心配そうな顔を向けてくれる親友の顔を直視しづらくて目をそらした。
もちろん、元気がないことに理由がないわけがない。しかし、それを口に出したことはなかった。
私はかなりネガティブな性格だ。
自分のことが嫌いで、何もかもを疑い出すと止まらなくて……。そう、隣にいる親友のことさえ疑っているのだ。その優しさには何か裏があるのではないかと。
そんなこと、一体どの口を使って、誰に向けていえばいいと言うのか。
寝不足なだけ、と嘘でもつけば良かったのかもしれない。あまり上手に嘘をつけないので見破られるだけだろうけど。
「今日の梨奈さんは本当に元気がないなぁ」
元気出してー、と彩香が言う。
その笑顔を疑う自分が恥ずかしくなって、うつむいたまま静かにうなずきを返した。
今日の気分はなだらかに下降気味。
朝の出来事で決定づけられたか。
「お昼食べよっ」
彩香がお弁当を手に私の傍に座った。
彼女の傍にいると安心できる。でも、そんな自分をあざ笑う自分が心のどこかにいるのだ。何もかもをひどく客観的に、皮肉的に眺める自分が心の隅から囁く。
心から信頼できてない相手の傍なのに安心してるって、何か滑稽。
やめろ黙れ、と覇気のない声で返した。……返さない方が良かったかもしれない。
帰りの電車でも彩香は私を励ましてくれた。
今度一緒に遊び行こうよ、と言う。
「嫌なこと全部忘れて遊ぶの、楽しいじゃん?」
その明るさが欲しいと思った。
ほんのちょっとでいい、他人を信じられる心があれば……。
なんて、ないものねだり。
また自分のことを皮肉った。ああもう、こんなにどうしようもない自分なんか、
「また何か考え込んでるなー?」
いまいち取り留めのない思考は彩香によって中断された。
「しずみこむな、ってのっ」
ぺちぺち私の額をはたくその仕草がおかしくて、くすりと笑った。
私の笑顔を見て、彩香もまた笑顔になった。本当にころころと表情が変わる子だ。
晴れ晴れとしてきた心の隅で、あのシニカルな自分がまた囁いた。
ふーん、そう、幸せなんだ。良かったね。
誰もいない家に帰った途端、私は理由の分からない罪悪感にさいなまれた。
うぅ、あぁ、とうめき声を上げながら、自分のベッドの上で泣きじゃくる。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
何に対して謝っているのかも分からないが、ただ自分の中で膨れ上がる罪悪感をやり過ごすにはこうするしかなかった。
何十分も大泣きして過ごした後、私は泣き疲れてそのまま眠りに落ちた。
作品名:好きにはなれないの? 作家名:風歌