心機一転
私の番だ。
「二ノ宮です。目標は、達成すること。心構えとしては 心機一転。前期は、靴の底を減らした甲斐あって成績に結びつきましたが、今期も新たな気持ちで皆、同じラインですので頑張りたいと思います」
「期待してるぞ!頑張れ!」
思わぬ声についぺこりと頭を下げ、にやついてしまった。
市村のような爽やかな笑顔ではないものの、好印象か。
(よし、キマッタ!……あれ?前列の女子がくすくすと笑っている…まあいいか)
そのあと、三人が続くかと思ったら、専務の話が入りそのまま終わってしまった。
それぞれの部署に戻り、仕事が始まった。
通りすがりに 市村が私の肩をぽんと叩いて行った。
(おい、何か言っていけよ。言われるのも癪か……まあいい)
外は、寒さが厳しくなってきた。営業周りの足も何となく重い。
立ち寄り先に、つい長居をして予定を回りきらない日もあったが、まだ今期駆け出しと悠長に過ごしていた。
それなりに 契約もして貰えた。今月は、まずまずだろう。
その翌月、課の中での成績報告。課長が、ファイルを広げ、読み上げる。
「先月の出だしは、課としては良かったと思います」
皆、頬の力が少し抜けたように見えた。少なくとも私はそうだった。
担当地域に多少優劣が左右されるが、市村はいろんなところに飛びこんでいたらしく既に成果を上げていた。
前期最下位だった末松さんは、前期の地道な資料配布と説明で、今期に入ってからは、先方からの呼び出し数件。再度の説明と契約の取り付けができたようで、現在トップを独走中らしい。
そして、私だ。
課長がファイルから見あげ、眼鏡の上部フレーム越しに見た。
「頑張ることと成果は反比例というのはありがちですね」
(えっ前置きしないでくださいよ。まあ言われるのもごもっとも…ですが)
「えーっと、二ノ宮さんはと、継続がぁ四店、再契約が無しで…あぁ 新規一店!」
苦笑の中、只今最下位。
明日から、心機一転! 頑張ろうと決意を新たにした私だった。
― 了 ―