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きらきら星

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 Twinkle, twinkle little star,
 How I wonder what you are!

きらめくきらめく小さな星よ
 あなたは一体何者ですか?
 世界の上空はるかかなた
 まるでお空のダイヤのように
 きらめくきらめく小さな星よ
 あなたは一体何者ですか?

・・・これがきらきら星の一番の歌詞です」
「へ〜さすが天文学者! 詳しいね!」
「別に天文学者だからじゃありませんよ。たまたまです」
 そう言って、宏は天を仰いだ。大気のない月の宙(そら)は地球と違って宇宙そのものだ。数え切れない星々が天鵞絨(ビロード)のような天に散らばっている。
「きらきら星の五番の歌詞に『あなたの光と小さなきらめきが闇夜の旅人を導きます』というフレーズがあるんです。でもこんなにあってはどれが導きの星か分かりませんね」
 たくさんあるということは何もないのとおんなじだ。きらきら星の歌詞からそんな事を考えるなんて馬鹿げてると思わなくもないが、今の宏には星空でさえそう思えて仕方なかった。さっきまではただ美しいと思っていただけだったのに。
「分からないなら好きに選べばいいんじゃないかな。それか選ばないで我が道をいくって手もあるよ。あたしならそうするかも」
「秋穂さんらしいですね。適当というかなんというか」
「いや〜おだてても何も出ないよ〜?」
「別に褒めてませんよ・・・・」
 秋穂のノリと思考回路というものはやっぱりどこか珍妙だ。貶したわけではないとはいえ、どこをどうすれば褒めてるように聞こえるのやら。
「でもきらきら星の歌詞、教えてくれてありがと〜。やっぱりヒロくんって優しいよね」
「や、優しいですか?」
「うん。だってドライブに付き合ってくれたのヒロくんだけだもん。ふーこにも断られたのに」
「・・・・だから僕をドライブに誘ったんですか」
「ん〜それもそうだけど、ヒロくんに気分転換させたかったの。最近ヒロくん同僚と上手くいってなくて元気ないってふーこから聞いたから」
 どうやらふーここと宏の姉・楓子の入れ知恵のようだ。なにしろ姉は絶叫マシンが大の苦手である。体よく弟に押し付けようとしたのだろう。
(まったく姉さんはいつも余計なことを・・・)
それにいいかげん弟のプライベートを話のネタにするのはやめて欲しい。それに同僚と折り合いが悪いのは今に始まったことではないのに。
(そんなのここに来てからずっとだ。何を今さら・・・)
 著名な天文学者である父に連れられて月の観測所に来たのが二年前のこと。元々人付き合いは得意ではなかったし、観測所の所員は年上ばかり。そんな環境に宏は溶け込むことが出来なかった。
しかも同僚たちは若い宏を親の七光りだと貶し、馬鹿にした。宏が観測所に来れたのは決して父の威光を借りたからではない。僕がどれほど努力してきたかも知らない、あんな幼稚な人達の相手をするなんて時間の無駄だ。そう思って無視してきた。三ヶ月前、父が別の観測所に出張してからは、観測開始時間を伝えなかったり資料を渡さなかったりといった小さな嫌がらせが増えたが、気にしてなんていなかった。いなかったのに。
「あたしもね。最近のヒロくんは表情が暗いなと思ってたんだよ。やっぱり疲れてるんでしょ? なんか色々あるみたいだしね」
 秋穂にも分かるくらい顔に出ていたんだろうか。
「ヒロくんは真面目だから頑張りすぎちゃうんだよ。もっと力抜いて生きてもいいと思うよ。あたしみたいに」
「秋穂さんは抜きすぎです」
「え〜そうかなあ?」
 納得いかないとばかりに秋穂は首をかしげる。そのままかちゃかちゃと修理を続けていたが、ふと思い出したかように言った。
「まあでも、あたしヒロくんの優しくて頑張りやさんなとこ好きだよ」
「す、すき、ですか・・・・?」
 突然の宣言に宏はいたく動揺した。おそらく深い意味はない。ないだろうと分かっているのに衝撃を受けた自分にさらに衝撃を受ける。そんな宏のテンパリぶりに秋穂は当然気付かない。
「うん。ヒロくんもふーこもちゃんとあたしの話を聞いてくれるもん。他のみんなは冷たくてさ〜あんまりしゃべってくれないんだよね」
 そういえば秋穂が姉以外の人間と話しているところを見たことがない。まあ、あのノリについていくのは大変ではあるのだけど・・・・
(秋穂さんも人間関係で悩むことがあるんだろうか・・・?)
 年上とは思えないほど能天気で悩みとは無縁そう。今も服が油で汚れるのもかまわずに、修理に精を出している。良くも悪くも無邪気な彼女が悩むとしたら・・・
「やった! 修理終わり! これで帰れるよヒロくん! さ、後ろ乗って」
 宏がつらつらと考えているうちに修理はすっかり完了していた。秋穂は油まみれになった手を拭うと、サドルに勢いよく飛び乗って自分の後ろを指差した。
「え、ええ。秋穂さん、その・・・今日はありがとうございました。気分転換にはなりましたよ」
「ほんと? よかった〜楽しんでくれて」
「いえ別に楽しんだわけでは」
「でもそれはまだ早いよヒロくん。お家に帰るまでが遠足だからね」
 そう言うと、秋穂はM・Vのほうを向いて元気よく号令をかけた。
「ヴィーくん。エンジン始動!」
『リョウカイ。えんじん始動。現在地の座標三一五:五八、月面どーむ都市A21からにしへ一〇一.二五きろめーとる地点デス。A21への到着よてい時間は、二じかん三十一分五十二びょう後デス』
 M・Vの合成音声が独特のイントネーションでナビを始める。宏は秋穂の後ろに座って安全ベルトを装着すると、念のために警告した。
「帰りは安全運転で頼みますよ」
「まかしとけ〜♪」
 若干不安になる返答だったが、M・Vは思った以上に安全な速度を保ったまま、月面を走り始めた。
「てぃんくるてぃんくるりとるすたー☆ はうあいわんだーほわっとゆーあー♪」
「まだ歌うんですか・・・」


As your bright and tiny spark,
 Lights traveler in the dark,
 Though I know not what you are,
 Twinkle, twinkle, little star.
 Twinkle, twinkle, little star,
 How I wonder what you are!

 あなたの明るさと小さなきらめきが
 闇夜の旅人を導きます
 あなたが何者かは分からないけど
 きらめくきらめく小さな星よ
 きらめくきらめく小さな星よ
 あなたは一体何者ですか?


 能天気でいいかげんだけど、あなたは僕の導きの星です。
・・・・なんて考えた自分が恥ずかしくて仕方なかった。
作品名:きらきら星 作家名:紫苑