経過(4/29編集)
『 まだまだ おわらない よ 』
声がしました。
この場に今だかつてなかったはずの――紙切れを床に落としたような――乾いた、小さな声です。しかしまた突風が先程よりも一際強く、少女らの間を突き抜けていきましたので、終わりの方はすっかり掻き消されてしまいましたけれど。
それでもベールの少女にはそのささやきが聞こえていたようで、パチクリと目を瞬かせ、
「アンナ、今なんか言ったかい?」
名を呼ばれた少女はその唐突な問い掛けに、吹き付けてきた強風のために瞑っていた瞼を隣の少女と同じようにパチパチ動かして、答えます。
「いいえ、何も」
問い掛けた生徒は暫し、不思議顔の友人を見つめていましたが結局、
「そう」
短く返して、視線を空に向けました。
鬼火はただただ黙したまま、めらりめらりと燃えています。闇色のカーテンの中で、ろくに舗装を施されていない荒れた土の上から燃え盛るその様は、まるで川辺の蛍か夜空の星を思わせます。
動かない、語らない、その火。それは何の因果で此処に現れ、存在しているのでしょうか……。
誰にも解らぬまま、雨脚だけが強くなってきました。
作品名:経過(4/29編集) 作家名:狂言巡