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御堂さんちの家庭の事情

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「うん、行く。丁度おなかすいてたんだ。ハンバーグ弁当を買おう、あそこのは美味しいから。……二つ買ってもいい?」
「……ハンバーグでもカキフライでも、二つでも三つでもなんでも好きなの買って頂戴…………」
 言ったら、普通に大食いなママは子供みたいに喜んで、嬉しそうに出かける支度を整えに部屋を出て行った。
 ママったらほんと、バカみたいに食べるくせにちっとも太らないなんて、世の中いろいろちょっとおかしい。
 お兄ちゃんが苦労するはずだわ、なんてあたしは呆れて溜息をついてから、コートを手に取って部屋を出た。





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 うちが「人類の敵一家」なのにはワケがある(なきゃおかしいけど)。
 手っ取り早い話、家はママを除いて全員が「人間じゃない」のだ。
 お兄ちゃんは、よくふざけて「俺たちが悪の手先なのは、父さんが悪の大将やってるせいだ」なんて言うけど、その「悪の大将」と「熱烈な大恋愛の末にカケオチ結婚した」らしいママは、あっけらかんとこう語る。

「確かに頭の変な吸血鬼は山ほど居たけどさ。でもお父さんの時はなんでだか、吸血鬼だからなんだって、気にならなかったんだよねー」

……能天気にも程があると思う。つまり家は、父親が人間の血を餌にする「吸血鬼」と言うお化けなのである。そのパパとママの間に生まれたあたしたちは、人間と吸血鬼のハーフいうワケだ。
 普通ならここで「そんなマンガみたいな」なんて突っ込みが入るところだろうけど、残念ながらパパが吸血鬼なのは本当だし、そのパパの能力……コウモリになったり霧になったり、人が頭で考えてることが読めてしまったり、物凄い怪力だったり……が、一部だけどあたしたちにきちんと遺伝してるのも事実なので、これはもうしょうがないと思って諦めるしかない。
 パパとママが出会わなければ、あたしたちだって存在してないのだ。あたしたちが居なかったら「現場学習でうっかりクラスメイトを白熊の檻に瞬間移動させちゃった事件」とか「うっかりテレパシーでマフィアの麻薬取引現場を発見しちゃって銃撃戦になっちゃった事件」とか、ややこしい事件が起こらずにすんだって見方もあるけど、そんなことは今更言ったってしょうがないから気にしてはいけない(と、ママが言っていた)。
 どの事件もパパとお兄ちゃんとあたしたちがちょぴっと苦労したお陰で表沙汰にはならなかったけど、そんな騒動の元であるあたしたちを作った片割のパパは、あたしと巽が二歳の時に、家を十三歳のお兄ちゃんと、パパの眷属でずっとパパの護衛を勤めていたというガルちゃんに託して出て行った。
 あたしは詳しくは知らないけど、世界には吸血鬼を殺すのを職業にしている人たちがいて(ママも元々はその仕事をしていたそうだ)、万が一その人たちに見つかったときに、あたしたちまで巻き添えにしないようにって言うパパの決定だったらしい。家の「他人を家に入れない」とか「ドアを開けるのはそこに居る人が誰か確認してから」とか言う決まりごとも、その人たちに対する用心の為なのだ。
 以来パパは名前と姿を変え、その辺のどこにでもいそうな中年を装って地方の会社で働く傍ら、ママにはナイショで食事と実益を兼ねたホスト業で稼いでは、家に仕送りを続けている。時々は帰ってくるけど、一年のほとんどの時間家にはいない。一番長く居られるのは夏の旅行のときだけど、それですら三週間がリミットだ。
 パパは吸血鬼だけど、ママと結婚するときに誓いを立てたとかで、人間の血を飲めない。血を飲めないんだからそれを別のもの……人間の「精気」で補うしかないんだけど、ママを「餌」なんかにしたらママが死んでしまう。
 血を飲めない上に精気も吸えないって辛さは、ある意味吸血鬼にしか解らないだろう。これはもうどうしようもないことなんだし、事情を話せばママだって解ってくれると思うんだけど、パパはそれだけはママには言えないみたいだ。きっと嫌われるのが恐いんだと思う。実際「精気を貰う」って、することは浮気とほとんど変わらないし。
 まあ理由がなんにしろ、ママはパパから別居を切り出されたとき、文句一つ言わなかったそうだ。
「母さんは絶対反対すると思ってたんだけどな。でもやけに素直に「はい」なんて言うからさ。俺内心父さんの裏商売がバレて離婚でもする気なのかと思ってた」とは、当時の家族会議に参加したお兄ちゃんから、後になって聞いた話である。





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 家を出れば夕方が近かった。遠くの空がすでにうっすら茜色だ。あたしとママは空を見上げて「すっかり冬だね」とか話をしながら、家のある通りの角ッこでやっている、小さいけれど手作りの味が評判なお弁当屋さんまでのんびり歩いていった。
 お弁当屋さんで、ママはハンバーグ弁当を二つとあたしのからあげ弁当を買ってから、「巽にはヒレカツ弁当で、お兄ちゃんにはスタミナ弁当を買っていってあげることにしよう」と言ったので、そうした。帰りがけ、「本当によく食べてくれるし、いつもいっぱい買って貰ってご贔屓にしてもらってるから」って理由でママの大ファンなお弁当屋さんのオジサンが、オマケとクリスマスのプレゼントを兼ねて揚げたてのコロッケをたくさん袋に入れてくれたので、食べながら帰ろうかってママとあたしとで一つのコロッケをはんぶんこにして齧りながらお弁当屋さんをでたら、もう辺りが暗い。時間はそろそろ遠くの町の明かりがぼつぼつと増えていく頃で、ママは歩きながらコロッケ口にいれてもぐもぐしつつ、「夕焼けを見損ねたね」と言って笑った。
「日が落ちるのがほんと早いなー。明日はクリスマスイヴだし、当然かー……今ごろはどこの家でもどこのカップルも、明日が楽しみでうずうずしてるんだろうねえ」
「パパには地獄の季節でしょうけどね。右を向いても左を向いてもきよしこの夜だの第九だので一杯だし、俄かクリスチャンと十字架は増えるし。ジンマシンとか出してなきゃいいけど……ねえ、そう言えばママとパパって、あたしたちが生まれる前からクリスマスのお祝いってしてたわけ?」
「ん?してたよ。あの頃はいろいろ忙しかったし、日にちは前後してたけど。お父さんがケーキとかほかにもいろいろご馳走作ってくれて……うん、今とあんまり変わらないなあ。一緒に過ごす人数が増えただけで」
「……吸血鬼がよりによってキリスト教のお祝いをするってどうなのかしら、実際。……人数が増えたって、あたしたち?」
「まぁお祝い事には乗っかりたいし、楽しいんだからいいじゃない。……うん、そう、家族」
 あたしが聞いたら、ママは指先についたコロッケの油を舐めながらちょっと笑った。
「嬉しかったなぁ、ほんとに。家族ってこうやって増えてくんだーって思ってさ。嵐産んだ頃なんかほんと、大変だったけど楽しかったし」
「主に苦労したのはパパよね、絶対」
「そりゃね。でもお母さんだってがんばりたかったんだけど、お父さんが「お前に任せてると嵐が死ぬ」ってほとんど何もやらせてくれなかったんだから、しょうがないじゃん……あーあ、早く明日になんないかなぁ」