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すりばち公園

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 聞こえはいいが、これは博打の世界で、あの太平洋戦争の前と一緒だ。勝か負けるか、負けたときのことを考えない政府が、あの恐ろしい世界を作った。しかも、負けても逃げの一手で、いまだに政権の座についている。
 日本はただならぬところに来ている。殺しあいの戦争とは違う、経済戦争だというけど、破産は自殺者を出し、それこそ日本は自殺の超大国になりかねない。
 今必要なのは太平洋戦争の法的整理かもしれない。官僚を解体し、Nをはじめとする新聞社などを潰すことだ。官僚を解体といっても、簡単である。ブスでも取るNを真似ればいい。日本の社会の縮図である、ブス、馬鹿、美人、利口、そして普通の比率を構成すればいい。
 報道機関は、団体から個人の世界にすればいい。報道内容に記者の責任を厳しくつけることだ。
 いずれにしても1億博打化は、あまりにも危険すぎる。日本はどんどん悪い方向に進んでいる。

   (十四)

 まぁ、「逃げの一手で、いまだに政権の座についている」とは言い過ぎかもしれない。しかし我が家は、いつも人災の方に大きく打撃を食う家である。今の日本に不満足ということ自体贅沢かもしれない。海外に行って見ると、日本の国土の美しさは際立っている。

 両親が死んでもう10年になる。自分が代を繋げられなかったことは残念である。自分の甘えが潜んでいたのである。もうこの歳になると、女も欲しいとは思わなくなった。むしろ自分の命を縮めてしまうと考えている。これからは一人で、さらに自分の仕事を深めて行きたい。両親になんと言ったらいいのか弁解の余地がない。申し訳ないです。
 そういう意味でクラスメイトはえらいと思う。癌になれば、このくらいで死ぬ人は一杯いる。彼はとにかく勇気のある人だったと思う。自分の方がやくざである。

   (十五)

 忘れもしない10月6日土曜日が来た。朝自分の部屋で昨夜のNY市場の結果を見た。小幅に下げている。中国の景気対策に注目が集まっているようだ。今日は、スポーツクラブの2階でジョギングをする予定になっている。天気は良くなかった。しかし雨は降ってない。いつものように、8時頃もう出て、コンビニ・公園・スポーツクラブ・そして自家というパターンが続いていた。
 自分は雨具を座席の下に入れ、スクーターで西の大道りに出て、途中から農道に入って、23号線の下を走った。リュックを背負ってのいでたちである。今年の冬は、もうこの秋から冷え込んでいる。着てきた、毛の入った長袖のシャツでも寒いくらいである。つい先日、暑くて涼しいところを求めていたのが不思議なくらいである。
 23号線の下はほとんど車が通らず、スクーターでは快適なところだが、もっと寒さが増してきたら、どうするだろうかと思った。そのとき一台の軽自動車が後ろについており、まったく気づかない形で追い越された。ヒヤッとした。道幅が狭いからである。
 そして高棚の交差点までくると、高架式の道路から降りる道と合流する。自分はここから右折して安城街道を走る。いつも、信号が赤信号に変わって、3秒後に右折の矢印がつく。自分はそれに合わせてアクセルを噴かした。スクーターは勢いよく出たが、左前方から、銀色の10トントラックが猛スピードで、自分のスクーターをめがけて突進してきた。まったく予想外だった。

   (十六)

 翌日やはり公園で日記を書いていた。天気は昨日と同様良くなかった。午後から雨になるという。書き疲れて、視線を上げるとそこにすり鉢の丘がある。見事に刈り込まれた丘は、ボリュームと豊かな曲線で、美しい人工美を放っていた。
 左側に、ムクドリとセキレイが歩いている、すり鉢の向こうの堤にも一匹セキレイが歩いている。
 この公園には、周囲に9本の樹木があって、コナラが4本、ケヤキが2本、百日紅が2本、そして一段高いところに樫の巨木が立っている。
 すでに陽の無い日は、寒くはないものの暑さは微塵も感じられない。もうしばらくすれば、ここでの書き物は出来なくなるかもしれない。
 雨が降り始めた。まだ時々感じる程度で、気にせずにこの丘の堤に登ってみることにした。書き物のあとよくする気分転換だった。視線が高くなって、趣が違って見える。すり鉢を一周しないうちに、雨脚が速くなり予想外の本降りとなってしまった。それでも2週したあたりで奇妙なことが起きた。
 来ている長袖のシャツがぬれていないのだ。Gパンにも触ってみたがぬれていない。不思議だ。足を上げ、靴底を調べてもぬれていない。そういえば、今朝家を出るとき、空一面に青いもやがかかっていた。と言うか、膜かベールのようだった。身体を動かすと、それが薄くなって気にも留めず忘れてしまったが、あんな経験は初めてだった。
 それからまた、今度はすり鉢の底に降りてみる気になった。底は3メートルくらいの深さで、円形のコンクリトが張られ、中央に水抜きがある。
 底に立ってみると、水抜きの蓋には取っ手が隠れており、それを引き出して開けてみた。なんと、底は大きな空洞になっているのではないか。と言うより部屋みたいだった。

   (十七)

 恐る恐る中を覗いてみると、人影があった。その人物はすぐに明かりに照らし出され、自分はそれを見てギョッとした。なんと金融大臣ではないか。
 自分は絶句して、この『すりばち公園』は自分の墓場だと悟った。
 金融大臣は優しく微笑んでいた。そして何かを語りたい様子だった。
 自分は中に入りたいと思ったが、ここに入ったら二度ともう出られない気もした。
 たぶんクラスメイトも中に居るだろう。かまわず中に入りたく思った。
 そのとき、背後の、この世の空はますます青みがかかって、もう陽の光の世界と違っていた。
 自分は思い切って、空洞の部屋に飛び降りた。すると金融大臣は近づいて来られ、自分の手と肩に触れ、「君が来ることは分っていましたよ」と言った。
 そして、いままで、自分が一番願っていたことを、金融大臣は一言で言った。
 「お父さんもお母さんもお祖母さんにも会えますよ」と言った。
 自分はうれしかった。今まで、生きて来て一番うれしかった。(了)
 
 




作品名:すりばち公園 作家名:杉浦時雄