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すりばち公園

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(一)
 
 公園の入り口は鋼鉄の支柱が並んで立ち、車の進入を防ぐようになっている。その間をスクーターでくぐって、そばの樹木の下に止めた。強い陽射しをさえぎり、木陰となったことで、車体が熱くならないようにだ。
 先ほどまで、コンビニの喫茶コーナーで書き物をしたあと、ここにやってきた。スクーターの車体が、小石で敷き詰められた舗装の地面に止まると、スイッチを切り、急に周りが静かになった。
 この日は相変わらず暑く、強い日差しが照りつけ、どこもここも熱気がみなぎっているようだった。側溝を隔てた生垣、すり鉢というよりもクレーターのような大きな窪み、そこにしかれた芝生もかなり熱くなっている。
 自分はヘルメットを脱ぎ、スクーターの後ろかごに入れた。そして腰掛マットをあけ、中から自動車用から拭き布を出した。そのとき、そばに入れておいた腕時計で時間を見ると、まだ9時5分過ぎたところだった。
 朝、株式市場の寄り前を見ずに来たので、いつもより30分くらい早かった。
 すぐ近くにある、公園の休憩所に向かう。休憩所は立派な造りになっていて、大きなテーブルと長いすが4つ囲まれている。今朝はタバコの吸殻と、ペットボトルが1本、あとテーブルの上に縄跳び用の玩具が置かれていた。これは昨日自分がすり鉢の土手に無造作に捨てられてあったのをたたんでここに置いたものだった。大方休憩所は、ごみの少ないきれいな日だった。
 しかしコンビニで持ってきたビニール袋で、そのあと丹念に拾い集めた。それを、西側にあるトイレの棚においてくる。そして、今度は自分の座るところだけをカラ拭き布で拭いた。テーブルも椅子も砂粒がいっぱい落ちている。子供が土足で上がったのだろう。拭いているとき、東の水の入っていない大きな池から、涼しい風が吹いてきた。さわやかだ、ここが気に入っているのも、風通しがいいからだ。周囲は建物に囲まれているが、公園と池を合わせるとかなりの広さだ。見通しがよく効いて、自然が残っているとまでも言わないが、ちょっとした憩いの場所に仕立てられている。
 自分は背負っているリュックを椅子の上に下ろし、中から手帳を出し、テーブルの上に広げた。先ほどもコンビニで書いていたが、3ページ目としてまず日付を入れた。9月2日である。日曜日。

   (二)
 
 休憩所の屋根に柱が6本、吹き抜けになっている。その向こうの、水のない池が開けて、広い空間がある。遠く大型電気店のビルが見える。
 それらの遠景を背後に、休憩所のテーブルと椅子は、見事にマッチしてすばらしい景色を見せていた。
 池の真っ白な柵の前に樹木が1本、そして南側に太い樫の木があり、小石で舗装された道がクレーターのようなすり鉢の周りに続いている。
 スズメ、カワラヒワ、キジバト、そしてカラスが絶えずやってきて、水のない池の底のたまり水で水浴している。
 池から吹いてくる風はさわやかだ。こうして、テーブルの上で書き物をしていても、暑くはない。しかし、今朝の気分はあまり良くなかった。原因は株である。恐ろしいほど下げてしまった自分の持ち株は、二転三転して、ゆらいでいた。
 確かそのことを1ページ目に書いている。気分によって文字はいつも変化しているが、あまりきれいな字ではなかった。
 しかし、周囲の環境は静かで、涼しい風が吹いて、天気がよく明るい。ここだけが自分の場所のような気がする。いつまで居ても飽きないところだった。目をトイレの方に向ければ、先ほど止めた自分のスクーターが、まだ新しい白い車体が見える。後ろのかごにはヘルメットが入っていた。
 時間があった割には筆が進まなかったので、立って、背後の池を眺めたり、樫の木の下のベンチにも行って、考え事をしたりした。スズメが、先ほどから餌を見つけたのか、盛んに格闘している様子である。行って見ると、バッタを捕らえ、その羽が落ちていた。
 時間はあまり進まなかったので、10時からのスポーツクラブだったが、15分前でここを去ることにした。スクーターを、すり鉢の道を一周させ、鉄柱の間をすり抜けて、新幹線の土手の道からクラブの駐車場を目指した。落ち着いた気持ちだったと思う。

   (三)

 翌日、また公園にやってきた。
 いつものようにコンビニで作文したあと、そのはしごとして、ほとんど毎日のようにこの公園に来る。
 水のない池の北側の生垣の続く道路をスクーターで走り、左に折れたところにくると公園の休憩所が見える。今朝はいつになく人影があって、「ちと、まずい」と思いながら、いつもの樹木の下にスクーターを止めた。この公園の清掃の伯母さんの二人だった。70くらいの彼女は見覚えがあったが、もう一人の若い、50代くらいの彼女は初めてだった。
 黙って近づき、二人がこちらに振り向くと、ちょっと頭を下げた。そしていつもの席に場を取るとき、今から日記を書くことを告げた。二人は仕事の話をしているようだった。しかも一方的に70くらいの彼女が話し続けていた。自分は関心がないように装い、コンビニの続きを書いた。株の市場分析だった。
 今朝も天気がよく、暑かった。ただ、ここは風通しがよく、快適であるが、いつもと違ったのは彼女たちの話し声が終始聞こえてくることだった。けれども、しばらくして70くらいの方が帰ることになって、それから50代の彼女と二人だけとなった。彼女は盛んに質問してきた。家がどこだとか、歳や家族のことも聞いた。久しぶりに話は栄えたが、これも自分の一人暮らしの裏返しである。自分は無職で、スポーツクラブの開店を待つ間、ここに来て日記を書いていることも言ったと思う。
 それからまた一人になった。静寂が続いた。休憩所の背後のコナラの木に、カワラヒワの群れがやってきた。たぶん家族だろう、親子・孫の関係である。黄緑色の美しい小鳥だが、スズメより小さく、街路樹にいっぱい巣をかける。人の近くには近寄らないので、意外と知らない人が多い。この休憩所も、普段は誰も居ない証拠である。
 コナラの木を下から見上げると、その美しい姿が見える。すぐに葉の陰に隠れるが、水のない池の底にたまっている水溜りに向かって飛び立つと、水浴を始めた。珍しい光景である。カワラヒワをこんなに近くで見ることさえ珍しいのである。

   (四)

 それからまたしばらく自分の席に戻って、日記をつけた。やはり株のことだった。しかし相変わらず筆は進まなく、ほほ杖を突いてクレーターの土手を眺めていた。左手、樫木の方に、背の高い草が育ち、小さな赤い花をつけているものが見える。秋の七草ハギだった。
 涼しい風も吹いてくる。すると、クレーターを一周している、小石を敷き詰めた舗装路の地面に、セキレイが一匹舞い降りた。白と黒のツートンカラーの、意気のいい小鳥である。近づいても、飛び立つのではなく、走って逃げる。尾をリズムカルに揺らし、餌を探しているのだろう、あっちこっち動いて忙しい。
 それを、休憩所のテーブルにほほ杖をついて眺めていた。
作品名:すりばち公園 作家名:杉浦時雄