おちていく…
息苦しさはまだ収まらず、愛子は咳き込んだ。
ゼイゼイする呼吸は、更に首の痛みに激痛を与えた。
未だに謝り続ける矢田に、愛子は掠れた声で聞いた。
「私と…別れるのがイヤなら…、家族を捨てて私と生きて…くれるの…?」
と。
えっ…?
と矢田の驚く顔が、とても印象的だった。
私を殺したいくらい、私を愛しているんでしょう?
違うの?
「出来ないのなら…、私と別れて…」
妻か愛子か、矢田は選択を迫られる。
矢田が考えている間、愛子は思う。
矢田のことだ、妻とは別れられない、といって私を捨てるはずに違いない、と。
真面目な男は、所詮、真面目だ。
社会的地位や権力、そして、世間体。
それらを何十年も掛けて培ってきた男が、いとも簡単に手放すわけがない、と。
単なる、私のために―――。