存在感
パートナの男は、研究員失踪のままではと、連絡を取るが携帯しているだろう機器はどれも無駄なことだった。
そんな男の隣には いつもロボットが寄り添っていた。
「ダイジョウブ?」
「ああ、ありがとう。でも何故急に?何か言っていなかったか?」
「シラナイ」
「そうか……」
「スキ」
「何言ってるんだ、こんなときに。そうだ、何か録音されてないか?」
男が、抵抗するロボットの録音機能を再生した。
―ずいぶん、変わっちゃったからな。おまえを見てるだけで嬉しいよ。ほらこっちおいで―
「おい。これって?」
ロボットの口元が微笑んだ。
「彼女に聞かせたのか?」
ロボットは微笑んだまま頷いた。
「馬鹿な!これは、僕と彼女の会話じゃないか!オマエが変わったって……なんでこんなもの聞かせたんだ。聞いたあいつもあいつだ」
男は、荒々しく席を立ち上がると、よろめいたロボットが本棚の角にぶつかった。
「イタイ。ヤサシイ。スキ」
「もううるさい!黙れ!“infection(インフェクション)”」
そう男が言葉を言った途端、ロボットはその艶々な瞳から輝きが消え、瞼らしき表皮を
閉めた。
――“infection(インフェクション)”病気で言うなら《伝染》《感染》とでもいうのだろうか。
《影響》《感化》という意も表すその言葉は、ロボットの機能停止プログラム発動の言葉――
男は、冷たい表皮の重たいボディを長椅子に横たえ転がすと部屋を飛び出していった。
最愛のひとのもとへと……。
― 了 ―