存在感
それからの彼女は、そのロボットと行動を共にすることとなった。
しかも、そのロボットは、進化していったのだ。
何処からか知能が与えられたように感情も仕草も思考までも彼女に同化していった。
パートナの男も、彼女本人に会えないときは、一緒に過ごした。
ときどき、男もどちらなのか見間違えるほど酷似していたのだった。
だが、嬉しさも楽しさも共有していく反面、彼女はストレスに感じることも増えた。
パートナと研究の為と愚痴は吐かなかったが、その矛先は過食症へ。
とはいっても とくに摂取する量が急激に増えたわけではない。高カロリのものを好んで 食べてしまうのだ。
彼女のスレンダーな体型。明るい笑顔すら変わっていってしまった。
そんな彼女をパートナの男も遠ざけるようになっていった。
彼女自身、悲しかった。
鏡を見ているようなロボットだったが、鏡の前に二体で映れば明らかに違って見える。
彼女は、もう一度、男の気持ちと元の自分を取り戻す為に奮起した。
だが、ロボットの差し出す食べ物は、変わらぬ高カロリなもの。
「コレ、スキデショ」
「もう要らないのよ」
「タベナイ? カッテキタノ。サミシイヨ」
「嘘!買ったのはアナタじゃないでしょ」
ロボットの口元が微笑んだかのように見えた。
「ソウ。ウソ。モウ アナタ イラナイッテ」
「何よ、それ?」
「カレ、ヤサシイ。イトシイ」
「アナタはロボットよ。彼がどういうか……」
「イラナイ」
―ずいぶん、変わっちゃったからな。おまえを見てるだけで嬉しいよ。ほらこっちおいで―
ロボットは、録音機能のボタンを押し、男の声を彼女に聞かせたのだった。
「な……なんで……」
その日彼女は、部屋を飛び出したまま、研究室に戻ってくることはなかった。