ピスタチオの猫
プロローグ
段ボール箱の中から見上げた空は、今日も灰色だった。
(腹が、減った)
(寒い)
湿った段ボール箱の底で丸くなって、半分だけ閉じられたフタの隙間から空を見上げる。もう何日も、こんなことを繰り返している。
(腹が減った、けど)
(寒いから、動きたくない)
死ぬのかもしれない、と、特にこれといった感想もないまま思った。
思っただけで、どうしようとは考えなかった。
おれは要らないものだから、こうして棄てられてしまっているのだし、それが死んでしまったところで、誰が困るわけでもないのだろうと、そう思った。
(ああ、だけど)
(公園を掃除するおじさんは)
(困るかもしれない)
朝、いつものように公園を掃除に来て、おれのようなものが冷たくなって転がっていたら、大層迷惑だろう。けれど、ここ以外に行く場所を知らないので、どうか大目に見て欲しいと思う。あわよくば、おじさんが回収しているゴミに紛れて、おれも別の場所へ棄ててもらっても構わないのだけれど。
(生き物は、どれくらい腹が減ったら)
(死ぬんだろうか)
分からないことを考えても仕方がないと思ったので、いつものように目を閉じる。こうして、一日をやり過ごす。
もうどれくらいここにいるのか分からない。七日目を数えたところで、数えることが無意味だと分かったので止めてしまった。
(あと、どれくらい生きるんだろうか)
そう考えて、いつものようにため息を吐こうとした。
「おい?」
(うん?)
「おい、生きてんのか」
(誰、だ)
「死んでんのか」
(何言ってるんだ)
「死んでんだったら、返事しろよ」
(無茶なことを、言う)
(死んでたら、返事なんかできない)
「何だ、生きてんのか」
「う、わ、あ」
唐突な浮遊感。両脇の下に温もりを感じて、閉じたまぶたの内側が白く焼ける。
段ボール箱の外側へ抱き上げられたのだと分かったのは、恐る恐る開いた視界に、仏頂面の人間がいたからだ。