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上田トモヨシ
上田トモヨシ
novelistID. 18525
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ピスタチオの猫

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プロローグ



段ボール箱の中から見上げた空は、今日も灰色だった。

(腹が、減った)
(寒い)

湿った段ボール箱の底で丸くなって、半分だけ閉じられたフタの隙間から空を見上げる。もう何日も、こんなことを繰り返している。

(腹が減った、けど)
(寒いから、動きたくない)

死ぬのかもしれない、と、特にこれといった感想もないまま思った。
思っただけで、どうしようとは考えなかった。
おれは要らないものだから、こうして棄てられてしまっているのだし、それが死んでしまったところで、誰が困るわけでもないのだろうと、そう思った。

(ああ、だけど)
(公園を掃除するおじさんは)
(困るかもしれない)

朝、いつものように公園を掃除に来て、おれのようなものが冷たくなって転がっていたら、大層迷惑だろう。けれど、ここ以外に行く場所を知らないので、どうか大目に見て欲しいと思う。あわよくば、おじさんが回収しているゴミに紛れて、おれも別の場所へ棄ててもらっても構わないのだけれど。

(生き物は、どれくらい腹が減ったら)
(死ぬんだろうか)

分からないことを考えても仕方がないと思ったので、いつものように目を閉じる。こうして、一日をやり過ごす。
もうどれくらいここにいるのか分からない。七日目を数えたところで、数えることが無意味だと分かったので止めてしまった。

(あと、どれくらい生きるんだろうか)

そう考えて、いつものようにため息を吐こうとした。

「おい?」

(うん?)

「おい、生きてんのか」

(誰、だ)

「死んでんのか」

(何言ってるんだ)

「死んでんだったら、返事しろよ」

(無茶なことを、言う)
(死んでたら、返事なんかできない)

「何だ、生きてんのか」

「う、わ、あ」

唐突な浮遊感。両脇の下に温もりを感じて、閉じたまぶたの内側が白く焼ける。
段ボール箱の外側へ抱き上げられたのだと分かったのは、恐る恐る開いた視界に、仏頂面の人間がいたからだ。

作品名:ピスタチオの猫 作家名:上田トモヨシ