未知なる扉はここですか?
俺は大変好奇心の強い人間だ。
趣味はなんですか?と問われれば、一言では言い表せないほど多くの趣味を俺は持っている。例えばスポーツ系やアニメ漫画、ゲームについて。旅行系から食物系、芸能系の事。音楽や美術系にも興味をもったこともある。それはまぁ一時ハマっただけでは趣味とは言えないかもしれない。が、俺の場合は気分でいつでもなんにでもハマれるということで、問われる限りはそう答えることができる。
そしてそんな俺はつい先日、今まで出会ったことのない系統の趣味を持ってしまったのだ。
それは――――
「歩実ッ(アユミ)」
「…んあ?」
不意に呼ばれ振り返る。そこには一緒に買い物に出ていた姉、静香(シズカ)が少し苛立ちげに俺を睨み、乱れた髪をうっとうしそうに払いのけながらこちらに近づいてきていた。
「あんたねぇ、私が見てないうちに何買って食ってんのよ」
姉貴は俺が持っているクレープを指さしながらそう怒鳴る。
「しかたねぇじゃん、普段あんまこういうの食えないし」
「…だったらねぇ少しはおしとやかに喋りなさいと何度いったら…」
そう言いだすのを口火に街のど真ん中で説教が始まる。あーあ、姉貴だって十分口悪いじゃないか…。そう言い出したら最後、この説教がいつ終わったもんか分からないため、俺は黙って頷き相槌をうつことに専念する。本当に困った姉だ。
だけど感謝している部分もある。この姉貴にあんなことをされなければ、今俺はこうしてここに、こんな恰好で姉貴と出かけたりはしていないのだから。
そう、今の俺は周りからどうみても―――女にしか見えない恰好をしているのだ。
つまり…
「…まったくなによ…ちょっと女装させたら私より可愛いってどういうことなのよ」
「そんなこといわれましても…」
小声で愚痴り出した姉を横目で見つつ俺は苦笑気味に返す。
こうなってしまったのはついこの前のことだ。今日みたいに俺は姉貴に誘われて買い物をしてる最中、女物の店に行くからと無理やり連れて行かれてしまった。すぐに終わるからといって一緒についていったものの、姉貴は一向に買い物を終えず、俺は恥ずかしいわ辛いわで我慢できずに少し姉貴を苛立たせるセリフを吐いてしまった。すると姉貴は恐ろしい顔をしながら俺を見ると「どうしてこの可愛さがわからないのよっ!」とわけのわからん言葉を吐いて(今の俺ならわかるけど)俺を見ながら服を何着か掴むと、人が見てないことをいいことに俺を試着室の中に押し込んだ。わけが分からず混乱している俺を後目に、一緒に試着室に飛び込んできた姉貴は突然俺の服を掴むと驚くべき速さで脱がし始めた。抵抗の遅れた俺は何か言わなければと声を出そうとした。が、それは読まれていたらしく恐ろしい笑みを浮かべた姉の声が俺を制した。
「いいのかしら…?こんなところに男がいるってバレたら大変よ?」
それだけで十分だった俺は、別に殴られるわけでもないわけだし…と妙にポジティブに考えながらその場につったっていることにした。姉貴は俺の服を脱がし終えると、先ほど一緒に持ってきていた服を「ん」と俺に差し出してきた。
それは、ピンクのワンピースだった。
「…は?え?」
「着なさい、今すぐ」
「…え、いやd」
「いいから着ろ」
「…はい。」
逆らえない俺はちょっと涙目でそれをうけとると覚悟を決めて着始めた。最初どっちから被るのか履くのか分からなくて頭に?マークを浮かべていると姉貴が「ああ、もう!」と苛立ちげに渡したワンピースをひっつかんで俺に被せた。ぎこちなく腕を通した俺は恐る恐る背後の鏡を見た。
そこにはただの男が女物のピンクのワンピースを着てしまったために、むさくるしいきもい絵図ができあがってしまった、となるはずの光景が飛び込んでくるはずだった。
鏡を見つめ続けた数秒の間のあと、小さく声が出た
「え…っと?」
(これはだれですか?俺…?)
そっと鏡越しに姉貴を見つめれば、口をぽかんと開けて驚いた顔で鏡の俺を見ていた。それをまた俺がぽかんと見つめていると、突然姉貴が我に返ったように「待ってろっ!!」と勇ましい声を上げて試着室を出て行ってしまった。残された俺は「えっえっ」と情けない声をだしながら壁にもたれているしかなかった。試着室の外からはバタバタと走り回る音が聞こえていた。いったい何をしているんだと落ち着かずにもぞもぞしていると、終わったのか突然姉貴が滑り込むように試着室の中に戻ってきた。手には何着か服を持って、だが。
「あ、あの…姉貴?」
「着なさい…」
「え?」
「いいからこれも着なさい!!」
逆らえるわけがない俺は、意味が分からないまま突きつけられた服を渋々着た。ピンクのワンピースの上に腰まで丈があるクリーム色の上着を羽織り、柄のついたストッキングを履き、よくよく見ると靴に…ウィッグまで持ってきていた。
「は?なにこんな持ってきて…」
「いいからいいから」
早く、と急かされて頭にウィッグを被せられる。少し明るめの茶髪になった俺はその姿で再び鏡を見返した。
「……」
「…やっぱり」
何がだ。そう問えない。それどころではない。…これは
「…俺?」
「見違えたわね…。普段全然パッとしないくせに。」
少し悔しそうな顔で鏡越しに見つめてくる姉貴。そうか、今の俺は姉貴より美人なのか。やっぱりそうなのか。
「行くわよ」
「は?」
急に言われた言葉に追いつけていない俺は間抜けな声を出す。
「だから、買い物の続き」
「え…じゃあ着替えるから」
「バカ、この恰好で行くわよ」
「えっえっ…む、無理無理無理!!絶対バレるって!!」
「ええい!!うるさい!!!それ全部買ってやるって言ってるのよ!?感謝なさい!」
「そういうことじゃないだろこれは!!」
ギャーギャーと狭い試着室の中で討論を繰り広げる俺たちを、店員の人が流石に気づいたらしく「お客さまー…?」と恐る恐る尋ねる声が飛んできた。ハッとなった俺とは裏腹に、姉貴は「はあーい」とさっきまでの声より1オクターブも2オクターブも高い声で返事をして容赦なくバッといきなりカーテンを開けた。
「ちょっ!!」
隠れる場のない俺は慌てるしかない。
「あのー、この子が着てる服とウィッグと靴、全部このまま着ていきたいんですけどー」
「あ、はい、かしこまりました」
姉貴の言葉を聞けば苦笑気味だった店員の顔は一瞬にしてにこやかな笑みへと変わる。そしてじっと俺を一瞥してきたのでなんだか値踏みされているような気分に晒された。居心地の悪い俺は何もない壁へと顔ごとむけて素知らぬふりをするしかない。俺が男とばれようがきっと店員は追及してこない。でもそれでも恥ずかしいことに変わりはなかった。が、しかし飛んできたのは予想外の言葉だった。
「大変お似合いですね!サイズはこれで大丈夫でしたでしょうか?」
「はい、いいです。買うのこれだけなんでお会計お願いしまーす。」
趣味はなんですか?と問われれば、一言では言い表せないほど多くの趣味を俺は持っている。例えばスポーツ系やアニメ漫画、ゲームについて。旅行系から食物系、芸能系の事。音楽や美術系にも興味をもったこともある。それはまぁ一時ハマっただけでは趣味とは言えないかもしれない。が、俺の場合は気分でいつでもなんにでもハマれるということで、問われる限りはそう答えることができる。
そしてそんな俺はつい先日、今まで出会ったことのない系統の趣味を持ってしまったのだ。
それは――――
「歩実ッ(アユミ)」
「…んあ?」
不意に呼ばれ振り返る。そこには一緒に買い物に出ていた姉、静香(シズカ)が少し苛立ちげに俺を睨み、乱れた髪をうっとうしそうに払いのけながらこちらに近づいてきていた。
「あんたねぇ、私が見てないうちに何買って食ってんのよ」
姉貴は俺が持っているクレープを指さしながらそう怒鳴る。
「しかたねぇじゃん、普段あんまこういうの食えないし」
「…だったらねぇ少しはおしとやかに喋りなさいと何度いったら…」
そう言いだすのを口火に街のど真ん中で説教が始まる。あーあ、姉貴だって十分口悪いじゃないか…。そう言い出したら最後、この説教がいつ終わったもんか分からないため、俺は黙って頷き相槌をうつことに専念する。本当に困った姉だ。
だけど感謝している部分もある。この姉貴にあんなことをされなければ、今俺はこうしてここに、こんな恰好で姉貴と出かけたりはしていないのだから。
そう、今の俺は周りからどうみても―――女にしか見えない恰好をしているのだ。
つまり…
「…まったくなによ…ちょっと女装させたら私より可愛いってどういうことなのよ」
「そんなこといわれましても…」
小声で愚痴り出した姉を横目で見つつ俺は苦笑気味に返す。
こうなってしまったのはついこの前のことだ。今日みたいに俺は姉貴に誘われて買い物をしてる最中、女物の店に行くからと無理やり連れて行かれてしまった。すぐに終わるからといって一緒についていったものの、姉貴は一向に買い物を終えず、俺は恥ずかしいわ辛いわで我慢できずに少し姉貴を苛立たせるセリフを吐いてしまった。すると姉貴は恐ろしい顔をしながら俺を見ると「どうしてこの可愛さがわからないのよっ!」とわけのわからん言葉を吐いて(今の俺ならわかるけど)俺を見ながら服を何着か掴むと、人が見てないことをいいことに俺を試着室の中に押し込んだ。わけが分からず混乱している俺を後目に、一緒に試着室に飛び込んできた姉貴は突然俺の服を掴むと驚くべき速さで脱がし始めた。抵抗の遅れた俺は何か言わなければと声を出そうとした。が、それは読まれていたらしく恐ろしい笑みを浮かべた姉の声が俺を制した。
「いいのかしら…?こんなところに男がいるってバレたら大変よ?」
それだけで十分だった俺は、別に殴られるわけでもないわけだし…と妙にポジティブに考えながらその場につったっていることにした。姉貴は俺の服を脱がし終えると、先ほど一緒に持ってきていた服を「ん」と俺に差し出してきた。
それは、ピンクのワンピースだった。
「…は?え?」
「着なさい、今すぐ」
「…え、いやd」
「いいから着ろ」
「…はい。」
逆らえない俺はちょっと涙目でそれをうけとると覚悟を決めて着始めた。最初どっちから被るのか履くのか分からなくて頭に?マークを浮かべていると姉貴が「ああ、もう!」と苛立ちげに渡したワンピースをひっつかんで俺に被せた。ぎこちなく腕を通した俺は恐る恐る背後の鏡を見た。
そこにはただの男が女物のピンクのワンピースを着てしまったために、むさくるしいきもい絵図ができあがってしまった、となるはずの光景が飛び込んでくるはずだった。
鏡を見つめ続けた数秒の間のあと、小さく声が出た
「え…っと?」
(これはだれですか?俺…?)
そっと鏡越しに姉貴を見つめれば、口をぽかんと開けて驚いた顔で鏡の俺を見ていた。それをまた俺がぽかんと見つめていると、突然姉貴が我に返ったように「待ってろっ!!」と勇ましい声を上げて試着室を出て行ってしまった。残された俺は「えっえっ」と情けない声をだしながら壁にもたれているしかなかった。試着室の外からはバタバタと走り回る音が聞こえていた。いったい何をしているんだと落ち着かずにもぞもぞしていると、終わったのか突然姉貴が滑り込むように試着室の中に戻ってきた。手には何着か服を持って、だが。
「あ、あの…姉貴?」
「着なさい…」
「え?」
「いいからこれも着なさい!!」
逆らえるわけがない俺は、意味が分からないまま突きつけられた服を渋々着た。ピンクのワンピースの上に腰まで丈があるクリーム色の上着を羽織り、柄のついたストッキングを履き、よくよく見ると靴に…ウィッグまで持ってきていた。
「は?なにこんな持ってきて…」
「いいからいいから」
早く、と急かされて頭にウィッグを被せられる。少し明るめの茶髪になった俺はその姿で再び鏡を見返した。
「……」
「…やっぱり」
何がだ。そう問えない。それどころではない。…これは
「…俺?」
「見違えたわね…。普段全然パッとしないくせに。」
少し悔しそうな顔で鏡越しに見つめてくる姉貴。そうか、今の俺は姉貴より美人なのか。やっぱりそうなのか。
「行くわよ」
「は?」
急に言われた言葉に追いつけていない俺は間抜けな声を出す。
「だから、買い物の続き」
「え…じゃあ着替えるから」
「バカ、この恰好で行くわよ」
「えっえっ…む、無理無理無理!!絶対バレるって!!」
「ええい!!うるさい!!!それ全部買ってやるって言ってるのよ!?感謝なさい!」
「そういうことじゃないだろこれは!!」
ギャーギャーと狭い試着室の中で討論を繰り広げる俺たちを、店員の人が流石に気づいたらしく「お客さまー…?」と恐る恐る尋ねる声が飛んできた。ハッとなった俺とは裏腹に、姉貴は「はあーい」とさっきまでの声より1オクターブも2オクターブも高い声で返事をして容赦なくバッといきなりカーテンを開けた。
「ちょっ!!」
隠れる場のない俺は慌てるしかない。
「あのー、この子が着てる服とウィッグと靴、全部このまま着ていきたいんですけどー」
「あ、はい、かしこまりました」
姉貴の言葉を聞けば苦笑気味だった店員の顔は一瞬にしてにこやかな笑みへと変わる。そしてじっと俺を一瞥してきたのでなんだか値踏みされているような気分に晒された。居心地の悪い俺は何もない壁へと顔ごとむけて素知らぬふりをするしかない。俺が男とばれようがきっと店員は追及してこない。でもそれでも恥ずかしいことに変わりはなかった。が、しかし飛んできたのは予想外の言葉だった。
「大変お似合いですね!サイズはこれで大丈夫でしたでしょうか?」
「はい、いいです。買うのこれだけなんでお会計お願いしまーす。」
作品名:未知なる扉はここですか? 作家名:織嗚八束