スキスキスキ
休みの前。
曇り空が広がる。雨も降るようだ。
(無理かな)
残業で遅くなったが仕事帰り、店に寄った。
「朝八時にお日さまが出ていたら迎えに来ます」
「はい」
私は、一杯だけ飲むとすぐに帰った。
帰りがけにふと入り口の横に吊るしてあったテルテル坊主が目に入った。
夜中から降りだした雨だったが、明け方にはあがったようだ。
カーテンの隙間から入り込んだ陽射しに、空きっ腹も忘れ、仕度して出かけた。
気持ちがスキップでもしているかのように軽やかだったが、車のステップで脛をぶつけた。
ママは、待っていたのだろう。
髪を下ろし、淡い…藤色のカーディガンを羽織りカウンターの椅子に腰掛けていた。
「おはよう。晴れましたよ」
「はい。晴れると思いました」
「じゃあ、行きましょうか」
「はい」
「洋服のママもすてきですね」
「そう?ありがとう」
私は、ママを車に案内し、家へと向った。
「どうして?晴れなのか、ずっと考えていたのですがわかりません」
ママは、何も答えなかった。
「さあ、どうぞ」
私が、部屋へ通すとママは、真っ直ぐ数寄屋風の床の間の前に座った。
自分の手漉き和紙の貼られた明かり小窓を眺めた。
「嬉しいです。自分で褒めてもいいですか?」
「お好きなように」
「とても似合ってる。イメージの通りです。気に入ってくださいましたか?」
「すきです」
「良かった」
「いえ今のは……」
「はい?」
「貴女のことが、好きです」
私自身、この隙にとばかりに言葉が出たことに驚きつつ、ママの横に座った。
「初めて見るなら、晴れた日がいいなって。お日さまの光が和紙から透き通ってくるようでしょ」
「本当だ。蜻蛉の羽のところから陽が……」
「また、見に来てもいいですか?」
「いいですよ。待っています。迎えに行きます。ずっと……ここに……」
(ここまでにしておこう)
それからの言葉は口にはしなかったが、私の気持ちはすっきりと透き通っていた。
― 了 ―