普通がいい!
佐藤が学校を終え、マンションへ戻ると人だかりができていた。
すると、知り合いの受付の人がこちらを見つけ、駆け寄ってくる。
「大丈夫だったんですか!」
「え?」
「先ほど、あなたの部屋が何者かに襲撃されました」
「え!? そ、それで?」
「家…物も盗まれてないようですし、よかったです」
…違う、狙いは僕じゃないし、金銭類じゃない…。
おそらく、帝釈天さんが僕に鞍壷さんを預けようとしたことに何かがあると思う。
「鞍壷さん…」
僕は、彼女の事情も知らずに、一人にして、しまった。
「主!」
すると、そこにサムライさんが走ってくる。
「無事でしたか…」
「う、うん…」
「すみません、守れませんでした…」
僕はそれを違うと思った。
すべて僕の不注意の生んだ結果だ。
でも、僕一人ではどうにもならないことでもある。
だから…。
「……頼む…」
「え?」
「頼む、僕に、彼女を助けてやるだけの力を貸してくれ!」
サムライさんは、目をつむり、そして口を開いた。
「主が仰せとあらば」
不思議と、サムライサンガかすかに笑ってるように見えた。
「お前らだけでできるのか?」
すると、そこへ一人の男が現れた。
「バイトさん!」
「ちぃっす」
彼が居候四人の中の最後の一人、バイトさんだ。
「今までどこへ」
サムライさんがややにらみながら聞いている。
「いや、部屋には戻ってんだけど、なぜか気が付いたらバイト先にいてな」
「そうですか」
すると、バイトさんは手に持っていた刀をサムライさんに渡す。
「必要だろ」
「…恩に着ます」
「ユウとシュフに犯人を尾行させてる」
バイトさんはこの五人の中で一番頭が切れる人だ。
そこに何度も助けられている。
「お、メール、ユウからだ」
すると、バイトさんはにやりと笑った。
「よし行くか」
「僕も行くよ」
「そうおっしゃると思いましたよ」
僕たちはいっせいに駆け出した。
…暗い…。
…痛い…。
ここどこ?
私、何やてるの?
怖いよ、次郎
助けて…
「ここか」
すると、バイトさんは懐を漁り出す。
「おう、ここだ」
ユウは自慢げにこれを語った。
「行きましょう、まどろっこしいのは嫌いです」
「そう焦んなさんなぁ、少し考えさせろ…」
少しの静寂がおこる。
「よし、正面突破が一番だな」
いきなりそんな突拍子もないことを言ってきた。
「大丈夫なんですか?」
「心配はもっともだが、佐藤、心配すんな、俺は賭けを外したことはないだろ?」
「ああ」
準備はできた。
「絶対、助けてやる!」
外が騒がしい…。
ついに私も終わりなんだ。
せめて、この言葉が誰かに届けばいいな…。
「たす、けて…」
「うん、お待たせ」
「え?」
目の前には次郎がいる。
幻覚かな。
「待ってね」
手をしばていた縄がなくなる。
「行こう」
本物だ…。
鞍壷は差し出された佐藤の手を握る。
「……ありがとう」
ぼそぼそと小さな声でそう呟いた。
轟く金属音、飛び散る火花、肉のぶつかる音、そして、悲鳴…。
数で負けてるこちらの楽戦だった。
サムライさんは刀を抜いてないし、ユウも本気ではない、それにバイトさんも。
シュフさんは不在だ。
すると、奥から佐藤が出てくる。
佐藤とアイコンタクトをかわし、戦闘に戻る。
「絶対に、野郎のところにゃぁ、いかせねえぇぇ!」
「こ、ここまで来れば…」
スタミナが限界だった。
「う、うん」
はぁ吐息を吐く。
そして顔を上げると…頭から血を流した男が立っていた。
鞍壷を突き飛ばしていた。
頭に重い一撃が入る。
「ご、ごふっ!」
さらに腹にもう一発くらった。
「がはっ!」
口にぬるりとしたものを感じる。
すぐそれが血だと分かった。
残った力で相手を睨みつける。
相手はふらふらした後倒れた。
「はは…ダメージ、追いすぎだ」
そこで佐藤の意識も途切れた………。
そのあと、情けないことに目覚めたのは病院だった。
そのあとは大変だった。
ユウと鞍壷が泣き付いてきたり、サムライさんが看病すると言い出したりなどなど…。
ただ、一つ言えることが。
「鞍壷さん、笑顔可愛いくなった」
「お前のおかげだな」
それだけ言ってバイトさんは姿を消した。
「そりゃ、そうだよ」
そのいなくなったところに語りかける。
助けてやる!、って言ったもんな。