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ACT ARME1

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ルインとグロウはおとなしく動きを止める。その顔はいたって平然としている。その理由はすぐ分かった。
まず、アコと呼ばれる女の子を羽交い絞めにしていた男が吹っ飛んだ。そして、メガネ君を羽交い絞めにしていたやつは、バヂッ!という激しい音とともにくずれ落ちる。
「残念でしたね。確かに、僕らはルインさんやグロウさんのように戦うことはしませんが、それでも護身用の技は持ち合わせているんですよ。」
「ツェル。もう気絶しているみたいよ。何言っても聞こえないって。」
この様子を見ていたほかの一味は、もう近づこうとしなかった。
さっきまであんなに自分たちがおびえていた集団が今、四人の手によってあっさりと倒された。まるで幻のようである。
「さてと、じゃあ治安部隊でも呼んで退散しますか。」
「さんせ〜い。」
そして携帯をとりだし、治安部隊に連絡を入れた後、きちんとお勘定を払って四人は退散した。後には、あいつらはいったい何者なんだと囁いている人達だけが残された。
さて、ルインが言ってたように、いきなり荒っぽく始まったが、とりあえずこの世界のことについて、いくつか説明をしておく。
ここは、『イーセ』と呼ばれる世界。正直、街並みを見る限りは、道行く人の格好が割かし変な感じがすることを除けば、この地球のこの日本の風景と見分けがつかない。
ただ、この世界は決定的に違う部分がある。それが「孔」である。
孔とは何なのか。実はこの世界でもよく知られていない。ただ、孔とは精神力みたいなものなのではないかという考えが一般的である。他にも、知られていることを挙げておく。
孔は、この世界に生きる全ての人に宿っている。
孔は、鍛えることにより強くなるが、孔の絶対量を増やすことはできない。また、孔の絶対量は生まれながら人によって違う。
孔の使い方次第で、色々なことができる。例えばグロウがやったように、軽く小突いただけで相手をふっ飛ばしたりできる。
他にも、孔を武器にまとわせて、武器から炎や電撃を出すことも可能。ただ、その人が持つ孔と技とは相性があり、武器から炎が出せるからといって電撃が出せるとは限らない。というか、そういうことができる人は稀である。
あと、『イーセ』についてもいくつか説明を。
このイーセでは、冒頭で行われた物騒なやり取りは、実はそこまで珍しくない。
前に書いてあるように、この世界全ての人に孔は宿っているので、それを使って悪事や横暴を働く人間がいるのだ。
また、この世界では武器の携帯は結構一般的である。だからルインが刀を所持していても、銃刀法違反で捕まることはない。
こう書くと、この世界はさも弱肉強食、物騒で、危険だらけのように見えるが、そうでもない。なぜなら、この世界の住民はなんかタフというか、死に至ることが少ないのだ。なぜかと聞かれても答えることはできない。だってわからないし。
さらに、孔を悪用してちゃらんぽらんしている馬鹿なヤンキー共よりも、はっきりと自分の正義と戦う意志を持っている人間のほうが、圧倒的に孔が強かった。
それゆえに、孔は精神力のようなものではないのかという説が挙がっているのである。
え?じゃあ、なんでさっきの『ドン・ペリ』の奴らは恐れられていたのかって?それはこの町『キブ』はのほほんとしていて、基本的に争い事とは無縁の生活を送っているからである。
よくいえば温厚、悪く言えば軟弱なこの町に、一部の人たちから有名な四人組がいた。
それがさっきのルイン、グロウ、アコ、ツェル(本名はツェリライ)である。
この四人は普段は郊外に住んでいるため、あまり存在は知られていないが、先ほどのような圧倒的強さを持っているため、知る人ぞ知る最強の四人と呼ばれ、畏怖されているのだ。
ただ、畏怖されているからといって、四人が何かと番長風を吹かせたり、子分を従えるなどということはしない。そんな事をする柄でもない。そんなわけで最強とうたわれながらも、四人はのほほんと日々を過ごしていた。
因みに、先ほどアコとツェルを羽交い絞めにしたやつらが倒されたのは、アコの方は孔で吹き飛ばしたのだが、ツェルのほうは違う。彼はその見た目に違わぬ機械系で、自分のどこかに仕込んでいるスタンガンのようなもの(でも発せられる電圧はその比ではないが)で感電させたのだ。
ただこれもどうやらツェルの孔に反応して作動するようなので、やはり孔のおかげなのかも。
まあこんな四人なので、四人の周りには本人たちの意思に関係なくしょっちゅうトラブルが起こる。
一人を除いてその状況を好ましく思っていないので、基本的に外に出ることはないという軽いひきこもり状態の生活を送っている。ただ、そんな生活を送っているせいで余計に噂が噂を呼び、畏怖されている感は否めないのだが。
というわけで、ルインは久しぶりの外出から帰ってきた。
「ただいま、大家さん。」
「あら、お帰りなさい。ルインちゃん。どこ行ってたの?」
「いつも言ってるけど、そのルインちゃんっていうのやめてくんないかな?ちょっと久しぶりに皆でファミレスに行ってただけだよ。」
「あんたたち、出不精すぎるのよ。もう少し外の空気を吸いなさい。」
「そんなこと言ったって。外に出たら出たで、何かしら問題が起きるんだもん。現に、今さっきだってヤンキーに絡まれてきたばっかだし。出不精にもなるよ。そんなことより、その手紙は?」
と、ルインは大家さんが手にしている手紙について尋ねる。
「これねぇ、ちょっと見てみる?」
そう言って渡された手紙の文面は、大体こんな感じだった。
『ここら一帯になんかよくわかんない研究施設と工場を建てるから、このアパートを引き払え。立ち退き料は払う。(文章大幅要約)』
「ふ〜ん。ここに工場ねぇ。」
「まあ、私も老い先短いからこれだけのお金をもらえれば楽に生活できるけど、やっぱり長いこと生活してきた場所だからね。」
「思い入れはあるよね。やっぱり。それよりこれ、このアパートの住民について何も書かれていないんだけど。」
「そりゃあんたね。十四、五年前にひょっこり現れて突然居候し始めた人間のことなんか勘定に入るわけないでしょ。家賃もほとんど払っていないのに。実際、何の手続きもしてないからあんたは正式な入居者じゃないよ。」
そう、ルインは十四、五年前、どこからともなくこのアパートの前に現れた。
その時のルインは以前の記憶がなく、当然身寄りもない行くところもないところをこの大家さんが拾ってくれて、以来ろくに働きもしないこの青年の面倒を見てくれているのだ。
「え〜〜?でもまあそれは一理あるかも。となるとこのアパートは入居者ゼロか。向こうも遠慮なく立ち退けと言ってくるわけだ。」
「そうなの。どうしたらいいかしら。」
「う〜ん、・・・よしわかった。十数年間世話になってきたんだから、この問題は引き受けた。」
「いいのかい?」
「ノープロブレム。任せてよ。」

「それで?早速僕に連絡してきたわけですか。」
「そゆこと。」
「それって大家さんに言った『任せてよ』という言葉と矛盾する気がするのですが。」
作品名:ACT ARME1 作家名:平内 丈