都市伝説で10のお題 01.どうしていつもマフラーを
結婚してからしばらく経ったある日、僕はふとマフラーのことを思い出して聞いてみた。
「もうそろそろマフラーのこと、教えてくれてもいいんじゃないのかな?」
正直、答えが返ってくることは期待していなかった。
「うん、いいよ」
彼女は今までにないほどあっさりと快諾した。
そして、今まで決して外さなかった赤いマフラーを外した。その途端彼女の首はごろんと床に転げ落ちた。
あまりの衝撃に、言葉も出なかった。
僕は床に落ちている彼女の首を恐る恐る持ち上げてみた。亜香音のことは大好きだけど、こうして首だけになると少し気持ち悪い。そんなことを思っていると、いきなり彼女の首が喋り出した。
「ずっと秘密にしててごめんね。私、人間じゃないの」
そう言う彼女の表情は曇っていた。
「人間じゃないって言うのなら、亜香音はいったい何なの?」
「端的に言うなら、魔物かな。ずっと昔に 首を切られて死んだ人に乗り移ったの。それからずっと一人で生きてきた。でも、やっぱり寂しくて、一緒にいてくれる人が欲しくなったの。私みたいなので良ければ、ずっと傍にいて」
もちろん、答えは決まっている。彼女が何者だろうと、僕が亜香音を愛してるということに関係ない。僕は彼女を強く抱き締めた。
「ありがとう。とっても嬉しい。でも、もう一つお願いがあるの……」
あれから五年の月日が流れた。
僕らはマイホームを手に入れ、子供も生まれた。
玩具で楽しそうに遊んでいる子供の首には紫色のマフラー、そして僕の首には青いマフラー。
僕と彼女の寿命には大きな差があった。僕が死んだら、彼女はまた一人ぼっちになってしまう。それを防ぐためには僕も魔物となるしかない。
愛する人と死ぬまでずっと一緒にいられる。これ以上の幸せはない。
作品名:都市伝説で10のお題 01.どうしていつもマフラーを 作家名:一宮愁花