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Remember me? ~children~ 3

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Episode3 First love


 七月になると、日射しは更に強くなり、外に出る事が億劫になる。
 特に放課後の帰宅は、時間的に日差しが強いから、家に着いた頃には体は汗まみれになってしまう。
 家に帰り、リビングの戸を開けると、とても気持ちの良い冷風が体をすり抜ける。
 ああ、幸せ。
 ここは天国か?
 暑い外から涼しい部屋に入る度に思う。
「あら、おかえり」
 ソファに寝転がって、ママは雑誌を読んでいた。
 すぐ隣のテーブルにはアイスコーヒーが置かれている。
 良いなぁ……ママは……。
「汗かいたからシャワー浴びて来るね」
「その前に、部屋にランドセル置いて来なさいよ」
「はーい」

 部屋に戻り、ランドセルを降ろした。
「熱っ」
 直射日光がランドセルの表面に当たっていた為、かなりの熱を帯びている。
 触らないで置いておいた方が良いかな。

 洗面所で汗まみれの服や下着を脱ぎ、洗濯機に突っ込んだ。
「ふぅ……」
 汗びっしょりの服や下着を脱いだからか、なんだか重荷が外れた気分がして、とても気持ちが良い。
 洗面台の鏡に自分が映る。
 長くて黒い髪、膨らみのない小柄な体。
 他の子達は、少しずつではあるが体に変化がある。
 クラスには、所々膨らんで来ている子もいるし……。
 私は、どうなるのだろう。
 鏡で自分の裸を眺めて数分、唐突に洗面所のドアが開いた。
「優子、ちょっと用事ができたから出掛けて来るわ……」
 ママは唖然した表情で私を見ている。
「……ち、違うの! これは、そういう事じゃなくて……」
 慌てて弁解する私に、ママは含み笑いを浮かべる。
「自分の体に魅入られちゃった? まあ、女の子だしね。でも、その体型じゃ十年早いわよ」
 それだけ言うと、ママはドアを閉めた。
 恥ずかしい!
 きっと私は、外の暑さでどうかしてしまっているんだ。
 さっさとシャワーを浴びて、夕飯まで寝ていよう。

 シャワーを浴びた後、バスタオルを体に巻き、暫くボーっとした。
 風邪をひいてしまいそうだけれど、これがとても涼しくて気持ちが良い。
「さて、と……あれ?」
 服を着ようと辺りを見回したところ、パジャマは置いてあるが、下着を持って来ていない事に気付いた。
 バスタオルを巻いた状態で、パジャマを持って部屋まで下着を取りに行く事には抵抗があるが、今はママも麗太君も帰って来ていないし、問題はないだろう。
 サッサと部屋に行けば良いだけの話だ。
 パジャマを片手に、部屋を出た。
 やっぱり廊下は暑い。
 でも、ずっと涼しい場所にいたから丁度良いかもしれない。
 裸だし。
 二階へ続く階段は、玄関から然程距離はない。
 階段を一段登ろうとした瞬間の事だ。
 突然、玄関のドアが開いた。
 まずい‼
 慌てて階段を登ろうとしたが、二段目で踏み外して床に転倒した。
 パジャマとバスタオルが派手に宙を舞う。
「痛っ……腰打ったぁ」
 打った部分を押さえながら、咄嗟に瞑っていた目を開けると、玄関には唖然とした表情で私を見る、学校帰りの麗太君の姿があった。
 暫くの沈黙。
 麗太君は我に返ったのか、慌てて後ろを向いた。
 しかし、その頃には遅かった。
 バスタオルは体から完全に離れ、私は何も身に着けていない無防備な状態で床にへたり込んでいた。
「あ……あ、わ、わあああああああああ!!」
 家中に響く程の大きな声で叫び、その場に散らばっているバスタオルとパジャマを拾って階段を駆け上がった。
 部屋に戻った頃には、恥ずかしさで頬は火照り、ジッとしていられないような衝動に駆られた。
 ベットの上に倒れ、枕に赤面した顔を押し付ける。
 今日は最悪だ。
 ママに裸を見られた上に、麗太君にまで……。
 しかも……全部。
 全部、見られてしまった。
 胸も、腰も、お腹も、お尻も……その、お尻の前の方とか……。
 どうしよう、次に麗太君に会う時にいつも通りの自分でいられる自信がない。
 次に会う時……夕飯……。
 もう、今日の夕飯はいらない。
 とりあえずパジャマを着て、朝まで寝よう。

 目が覚めると、部屋の中は真っ暗で、淡く暗い光が窓辺から差し込んでいた。
 どうやら、眠っている間に夜になっていたようだ。
 放置されていた冷房から吹く風が、部屋の中を完全に冷やしていた。
「寒い……」
 枕元に置いてある目覚まし時計の針は、九時を示している。
 朝まで寝ようと思っていたのだが、もう眠れそうにない。
 やっぱりお腹も減ったし、とりあえずリビングに行ってみよう。
 麗太君には、ちゃんと話をしないと。
 あんな格好でうろついていた私が悪い訳だし。

 リビングへ行くと、麗太君とママはテーブルで向かい合って何か談義をしていた。
 どうやら夕飯は食べ終わっている様だ。
 私の分は、テーブルの隅にラップを被せた状態で置いてある。
 テーブルの中央には数枚のメモ用紙。
 麗太君は、それに言葉を書いてママと話しているのだ。
 部屋に入って来た私を見るなり麗太君は、私を横切って部屋から出て行ってしまった。
「ねぇ、麗太君と何を話してたの?」
「そうねぇ……なんていうのかしら……。まあ、麗太君にも色々と事情があるのよ」
「やっぱり、私があんな事をしたから……」
 ポツリと呟いた一言に、ママは興味津々な反応をする。
「何? 麗太君と何かあったの?」
 どうやら、麗太君は学校から帰って来た後の出来事をママに話していない様だ。
「うぅん。何でもないよ」
 本当に良かった。
 それにしても、私に関した麗太君の話でないのだとすれば、ママと麗太君はどんな話をしていたのだろうか。
 聞いてみても、ママは誤魔化すばかりで何も教えてはくれなかった。



翌日、昨日の一件もあってか、ママを除いて私達は、朝からどことなく気まずかった。
家を出る時も、登校中も、学校でも、何となく距離を置いていた。
まあ、学校ではあまり麗太君とは話したりしないし、そもそも男子と二人っきりのところを皆に見られたら、からかわれる事間違いなしだ。
「優子、今日は何か変だよ」
 マミちゃんに、直々そう言われた。
 私は、いつも通りにしているつもりなのだけれど……。

 昼休み、今日一日の半分、頭から麗太君の事が離れなかった。
 やはり昨日の一件のせいだ。
 もう、思い出すと頬が熱くなってくる。
頭を抱えて机に突っ伏していると、マミちゃんが心配そうに声を掛けてくれた。
「優子、今日やっぱり何か変だよ。熱でも出たんじゃないの?」
「そんな事ないよ。私は大丈夫……たぶん」
「たぶんって……ほら、おでこ出して」
 額にマミちゃんの手が添えられる。
「うーん、熱はないみたいだけど……給食もあんまり食べてなかったでしょ?」
「……うん」
「何かあった?」
「……」
 黙ってしまった私に、マミちゃんは小声で聞いた。
「もしかして、沙耶原と何かあった?」
 沙耶原。
 その名前が出た瞬間、反射的に机から体を起こしていた。
「ち、違うよ! 麗太君とは、そういうのじゃなくて……その……」
 そして頬を真赤に染めて弁解していた。
 まずい、誰かに聞かれちゃったかな。
作品名:Remember me? ~children~ 3 作家名:レイ