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Remember me? ~children~ 2

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 春も終盤に差し掛かり、少しずつではあるが季節の移りを予感させていた。
 そんな日曜日の午後の事。
「高校の頃の友達と会う約束をしてるの。夕飯までには帰って来るわ」
 それだけ言うと、ママはテーブルの上に一枚のメモ用紙を置いて、出掛けて行ってしまった。
 テーブルの上のメモ用紙……何が書いてあるのだろう。
 手を伸ばしたが、寸前で止めた。
 いくらママの物でも、勝手に見てはいけない。
 我慢しよう。
 そういえば、ママの高校時代の友達って、昔の彼氏とかだろうか。
 再会を機にお付き合いする様な関係にでもなったら……。
まさか、パパがいるんだから、ママに限って妙な事はしない筈だ。
 きっと、そうに違いない。
リビングのソファに寝転がり、テレビの電源を入れた。
適当にチャンネルを回すが、やはりこんな時間だ。
面白い番組なんて、あまりやっていない。
強いて上げるとすれば、ベタベタな展開の刑事ドラマだろうか。
回したチャンネルで放送している刑事ドラマが気になったので、番組表を見てみた。
『湯けむり温泉サスペンス 若おかみの事件簿』
 なんてベタなんだろう。
 逆に面白い。
 こういったタイトルだと、何となくオチが見えて来るというものだ。
 夏頃になると、年齢層の広いドラマが頻繁に見られるのだが。
「ああ……暇だなぁ。今年の夏はキッズウォ―とか五つ子とかやるのかなぁ……」
 そんなどうでも良い事を呟いていた時、階段から音がした。
 麗太君が二階から降りて来たのだ。
 ドアを開けて、麗太君がリビングに入って来た。
 麗太君は周りを見回している。
 ママがいないからだろう。
「ママなら、高校の頃の友達に会うとか言って、出掛けて行ったよ」
 麗太君は頷いて、お菓子の入っている戸棚を開けたが、それを見て溜息を吐く様にして戸を閉めた。
「何かお菓子ある?」
 麗太君は首を横に振る。
「そっかぁ……」
「……」
 部屋の中が静まる。
 暇だ。
 お菓子はないし、誰かと遊ぶにしても近場のマミちゃんは日曜日は塾だし。
 本当に暇だ。
 ソファーから半身を少しだけ浮かして伸びをした時、テーブルの上のメモ用紙がチラッと見えた。
 それは、見てくださいとでも言わんばかりの位置に置いてある。
 そういえば麗太君は……
今度は冷蔵庫を物色している。
「見ちゃえ」
 ソファから体を起こしテーブルへ寄る。
 裏返しになっているメモ用紙を手に取り、書いてあるものを見た。
 丁寧に書かれた地図だ。
 おそらく、家の裏を真っ直ぐに進んだ小さな通りだろう。
 そこは大通りから大分離れていて、さらに特に立ち寄る目的もないので、そこには行った事がなかった。
 端の一軒に赤いペンで二重丸が記されている。
「どこだろう……ここ」
「麗太君、ちょっと来て」
 もしかしたら分かるかもしれないので、麗太君にも聞いてみる。
「ここ、どこだか分かる?」
 麗太君は常に携帯しているシャーペンで、メモ用紙にそれを書いた。
『駄菓子屋』
「え? 駄菓子屋?」
 麗太君は頷く。
「そんな所があったんだ。よく行ったりするの?」
『うん。僕も知ったのは最近。綾瀬とよく行くんだ。そんなに混む事もないし、静かだし、好きなんだ。あの駄菓子屋』
「そっか……光原君と……」
 喋れない事で、あらゆる障害を生んでしまった麗太君の為に、光原君は静かで居心地の良い駄菓子屋を紹介してくれたのだろう。
 なるほど、光原君がクラスメイトや先生から慕われる理由がよく分かる。
 さすがだ、騒がしいだけの男子とは一味違う。
 マミちゃんも、そういう男子の一面を見れば、少しは考えを変えてくれるかもしれない。

そういえば、どうしてママは駄菓子屋の位置を、地図に書いてまでメモに残したのだろう。
高校の頃の友達に会って来ると言っていたのも、何か引っ掛かる。
わざわざメモに位置を記して残したという事は、私……いや、私と麗太君をそこへ誘導する為?
分からない。
でも今、私達がする事はただ一つ。
「麗太君、駄菓子屋まで案内して!」
 麗太君は、待ってましたと言わんばかりに頷いた。
 どうやら彼も乗り気の様だ。
 私達は、日常から外れた様な少しばかりの冒険心を抱いて、自宅を後にした。

 麗太君に案内されて着いた駄菓子屋は、自宅から十分程の場所にあった。
 表の大きな通りから外れ、裏の通りを行き、古そうな民家の連なる通りの一角。
 外には、何種類かのアイスが詰められたケースが置かれている。
 入口の硝子戸はというと、閉まってはいるが、営業中という木製の小さな掛札が戸に引っ掛かっている。
 どうやら営業中の様だ。
 しかし……どうも人を寄せ付けまいとしている様な雰囲気が、入り口全体に漂っている。
「ねぇ、この駄菓子屋……営業中って書いてあるけど、普通に入って大丈夫なの?」
 頷くと、普通に駄菓子屋の硝子戸を開けてみせた。
 薄暗い店内の壁や小さなケースには、幾つもの駄菓子が詰め込まれている。
 よく見ると駄菓子だけではない。
 文房具やエアガン等、種類は様々だ。
 店の人は店内にはいない。
 代わりに、店の奥に障子で閉まっている座敷から人の声が聞こえる。
 店を放っておくなんて、悪い人でも入って来たらどうするのだろう。
 不用心だなぁ。
 天井からは鈴の付いた紐がぶらさがっている。
 物を買う時は、これを鳴らして呼んでくれ、という事なのだろうか。
 麗太君はそれの先端を持ち、揺らして鈴を鳴らした。
 すると、少しの間を置いて障子が開き、よぼよぼのお婆ちゃんが出て来た。
 床に杖を突いて、今にも倒れそうだ。
「あら、麗太君。来てくれたんだね。それと、隣にいる女の子は優子ちゃんかな」
 よぼよぼのお婆ちゃんは、私を見てにっこりと笑う。
「え? 私?」
「そうだよ。あんた達が今日ここに来る事は、さっき香奈ちゃんから聞いたんだよ」
「香奈ちゃん?」
 香奈……平井香奈。
 私のママの名前だ。
「どういう事? どうしてママが? だってママは、高校の頃の友達に会うって言って……」
「リビングのテーブルの上に、ここを示したメモがあったでしょう」
 確かに私達はメモを見て、ここまで来た。
 全部、ママとこのお婆ちゃんが仕組んだのだろうか。
 でも、どうして?
「香奈! 博美! こそこそしてないで出て来なさい!」
「え?!」
 突然、お婆ちゃんは名前を呼んだ。
「ネタばらしには早いと思うんだけどなぁ」
 そう言って座敷の奥から出て来たのは、ママだった。
 隣にもう一人。
「でも、優子ちゃん。困っちゃってますよ」
 藤原先生だ。
「藤原先生?!」
 私と麗太君は顔を見合わせる。
「麗太君、もしかしてママから何か聞いてるの?」
 麗太君は首を横に振る。
 良かった。
 私だけが何も知らない訳ではないようだ・
 藤原先生とママが座敷から降りる。
「こんにちは。優子ちゃん、麗太君。二人とも、学校以外で会うのは初めてね」
「え……あ、はい。そうですね」
 色々な事が突然に起こり過ぎて、上手く言葉が出せない。
「ちょっと、優子。先生の前なんだからハキハキしなさいよ」
 ママはからかう様に私に言った。
「で、でも……あの」
作品名:Remember me? ~children~ 2 作家名:レイ