人事はつらいよ
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「以上で面接は終了です。本日はお疲れ様でした」
「ありがとうございました。失礼いたします」
本日最後の学生が部屋を出て、一人三分×四十人=二時間ノンストップの一次面接が終了した。昼下がりに始まった面接も、この時間にはもう日が傾き始めていた。
「秋山さん、お疲れ様でした。ファームさん、急に怒ってびっくりしましたね」
書類の束をテーブルで整えながら、二時間ノンストップで書記を務めていた岸恵美が声をかけた。
「岸さん、初めての新卒採用の仕事だもんね。僕はこれで一次試験の面接官をやらされているのは四回目だけど、やっぱり毎年一人くらいはああいう人っているんだよね。今回の人は最近で言うキラキラネームだったけど、職歴とか、学校の変わった研究とか。例えば一昨年なんかは、ツチノコの発見を目指している研究室に所属している子が来たんだけど、やっぱりツチノコはどんなところにいるかとか、どういうものをエサとしているのかとか、たわいもない話をしているうちに三分経っちゃって、不本意そうに帰っていったよ」
「その人の結果は?」
「うちは応募者の絶対数も少なくないし、光るところがないと落としちゃうからね。例え研究室の内容が面白くても、名前が面白くても、その三分のうちに自分自身の長所をアピールできないとおしまい」
「そうですか・・・、でも今回の人は、自分で名前を決めたわけじゃないからかわいそうですね」
恵美の少し暗くなった顔を見て、秋山はあごの下に手を当てて、どこを見るわけでもなく視線をやや持ち上げ答えた。
「三分間の面接の中で彼は長所を伝えることができなかった。彼の名前がどうであれ、そこは変わらない事実なんじゃないかなあ。ただ、もし岸さんの中で彼に可能性があると感じるのなら、次の面接に呼んでみてもいいよ。一次面接の担当はあくまで僕と岸さんの二人だからね・・・うん、よし」
秋山は話しながらも本日の一次面接者リストの中から、該当者の名前の頭の箇所にマルを付けていた。結局のところ、マルがついたのは四十人のうちの五人だけだった。
「はいこれ、今日の僕の中での合格者。岸さんが気になっている人がいたら増やしてもいいけど。面接は今週一週間続くし、あまり前の日の人達のことを引きずらないようにね」
面接者リストを恵美に渡した秋山は、席を立ち事務室に戻ろうとドアを開けた。
「秋山さん」
恵美は立ち上がり秋山を呼びとめ、少し大きめの声で聞いた。
「今日の合格者は、私も秋山さんが選ばれた方だけで構わないと思います。ただ、一つだけ伺いたいのですが・・・。秋山さんは、なぜ佐藤牧場さんの面接の時に、十分に彼の言いたいことを聞けないことを分かっていながら、彼の名前のことを必要に聞いたのでしょうか?」
秋山はドアの外を向いたまま立ち止まっていた。少しの沈黙の後、ゆっくりと恵美の方を振り返り、にやっと笑っているのか真顔なのか判断のつきにくい表情で言った。
「面接会場では、面接官がルールなんだよ。僕が気になったことを聞いただけさ」