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嫉妬SS 流人(クロスウォーク)

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 同時にあの六枚切りの食パンは自分が欲しいと駄々をこねたものではなかったかということに思い至る。忘れていた。忘れていた理由はハッキリしている。ドロドロとしたものはどこかに消え、代わりにひやりとした奇妙なものが流れ込んでくる。
「ごめんね、なんか、魔が差して……流人記憶力良いからすぐ気付くかなって思ったんだけど全然そんなことないしむしろ怒ってるっていうか……」
 そう、と小首を傾げて彼女は今日初めて嬉しそうに微笑んだ。
「流人、もしかしてやきもちやいてくれた?」
「……はは」
 そう、その通り。ただ、やきもちなんて可愛い言い方ではなく、嫉妬と言った方がもっと適当な感情。
 多分彼女の隣を独占した時から抱いて、隠していたもの。
「でもビックリした、流人が怒るなんて滅多にないし……流人?」
「きーく、はいあーん」
 ずっと手に持って忘れていたチョコレート菓子を彼女の口に持っていく。無造作に口に突っ込んで緩んだ隙に彼女を押し倒してみた。あくまでも優しく。
 突然の事態に彼女はむぐむぐと何かわめく。俺はただいつものように微笑むだけ。
「うん、俺もビックリした。一年半かけてようやく気付いたんだけど俺すっごい嬉久のこと好きみたい」
「!?」
 目を白黒させて、彼女が慌てる。流石に面と向かって言われるとまだ照れるらしい。可愛いな、と誰にも渡したくないな、を同時に思う。なるほどなるほど、これからは「嫉妬」も適度に加えてみてもいいのかもしれない。素直になってみることもこれからの関係上大切なのかもなあと勝手に納得する。
「だから、許さないよ、嬉久」
「え、え?」
 ようやく口の中に詰め込まれたお菓子を飲み込んだらしい彼女はまだ混乱の声をあげる。
「少しでも俺に嫉妬させようと思ったこと後悔させてあげる」
「な、なんで流人ここ床……!!」
「うん、そうだね」
「やだ、離して……」
「ごめんそれ無理。俺はすっごいやきもち焼きらしいから、今度から気をつけてね、嬉久?」
 それから、と一言付け足す。彼女に本音を言うのは一年半の中で初めてかもしれない。
「本当は、嬉久が俺なしで生きていかれないようになってほしいんだ。知ってた?」
 努めて最高に優しい声を出して彼女の髪を撫でる。一瞬びくっと肩を震わせ視線を逸らし、「……知ってた」と呟いた彼女の声に揺るぎない勝利と幸福を感じながら彼女にキスをする。