香水(コスモス4)
鈍痛が一瞬身体を旋律と化して走ったのがわかった。離してみると、うっすら血が滲んできた。
もう一度、同じ位置にあてて、今度は思い切り引いてみようとする。
視界がうっすら滲んで、ぼけてきた。頬に、涙が次から次へと伝っていくのが、皮膚の感覚でわかった。血、は、出る。のに、私は表面をなぞるだけで、私の手はそれ以上深く進むことを拒んでいた。
思い切り、剃刀を地面に叩きつけた。投げた手が勢いを落とさずに、そのまま太腿を強く打った。カツンと、呆気ないほど小さい音が、その後に聞こえた。
死ぬしかないと思ったのに、死ねない。
そこで、ようやく気付いた。
すーはーすーはー。
あ、
私、息してる。
家に帰ろうと思って立ち上がったら、体のあちこちに鈍痛が走った。アツシに押し倒されて歩道に身を投げられたときの痛みを、今初めて感じた。スカートは黒く汚れて、足には擦り傷があった。ところどころに、血がついている。
とても高いビルが目の前に見えた。
あなたと、私の違いって何だったの?
答えてくれることは二度とない質問を、投げかけてみる。
吹き抜けていく風が冷たく、頬がピリリと痛んだ。少し、雨の匂いを含んだ、冷たい冷たい風。
ひとつ、大きく深呼吸してみる。
肺に沁み込む、その空気を確かめて、私は夜の街へ歩き出した
生の、街へ。