ユーフォリア
"イマジナリーフレンド"と呼ばれる存在をご存知だろうか。
幼い子供が良く一人遊びをする際に、相手を空想してままごとなどをする。
平たく言えば同じ現象だ。
頭の中で空想した相手が実際に「居る」ものと認識してしまう。
近年、そんな現象を起こす人が増加しているらしい。
虚構も極限まで極めればリアルになる。
目隠しをさせられた囚人が、手首にぽつぽつと水滴を落とされ、
「手首から血が流れている」と情報を与えて放置する実験は余りに有名だろう。
つまり、観測者が"現実だ"と認めればそれは観測者にとって現実なのだ。
視覚で、触覚で、嗅覚で。
例えそれが誤認であれ、誤認であることを証明することは非常に難しい。
一度認識した物は正されるまで観測者に取っては真実で在り続ける。
だから極限まで洗練された妄想は、当人にとっては現実なのでは無いか。
容姿、性格、行動パターン。それらを全て明確に定められた"妄想"は、
最早只の空想では無くなる。当人にとっては現実であり、存在するのではないか。
私にそれを否定するつもりは無い。ただ、余りに非生産的なだけなのだ。
自己を認めてくれる存在を自分で産み出す。
それは果たして非常に甘美な感覚なのだろう。
この発明が、果たして人類への福音なのか、それとも滅びへの唄なのか。
それは私が判断できることではない。
何故なら、この症状に羅患した人々は、みな揃って幸福な顔を見せるからだ。
彼らに現実を認めさせるべきなのか、
それともそのまま幸福な夢を見続けて貰った方が良かったのか。
それは今でも私にはわからない。
今は、彼らが真の意味での幸福を掴めることを、
ただただ切に願うのみである。
作品名:ユーフォリア 作家名:Etheldreda