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俺の目玉はアナログ放送

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 なんだ。そんなことか……。俺は胸をなでおろした。これで失明の恐れもなくなった。だがふと医者の顔を見るとまだ神妙な顔をしている。
 「まだ、なにかあるんですか?」
 「ええ、もう一つ質問をしておきたいのですが、視界の下にアナログ放送終了まであと何日といったことは表示されてますか?」
 俺は急いで確認した。確かに下のほうを意識すると、『アナログ放送終了まであと十四日』と見える。
 「あと十四日だそうです」
 そう伝えると医者は沈痛そうな顔をした。いったい何があるというのか。
 「大変申し上げにくいんですが、もう今から電子機器を使いだしても手遅れです。あと十四日後にはあなたの目は見えなくなります」
 申し上げにくいというわりには、はっきりと伝えるなと思いつつ、一度は去った失明の恐怖が再訪してきたことを感じた。
 「そんな! なんとかなりませんか? 僕はまだいろんなものが見たいのに」
 「まあ落ち着いてください。最終手段がないわけではありません」
 あるのか。この数分間の気分の上下は心臓に悪い。
 
 「それで、その最終手段というのは?」
 「まあ、まずはこれを見てください」
 医者はそういいながら引き出しを開け、なにか白くて丸いものを取り出した。一瞬ピンポン玉かと思ったが、違った。それは目玉だった。
 驚いて椅子から転げ落ちそうになったが、よく見たら精巧な作り物だということが見て取れる。視神経のところから導線が飛び出していたからだ。
 「それは一体?」
 「アナログからデジタルへと移行する。これがこの病気を治す一番の方法です。しかしあなたはもう普通の方法では治らない。であれば目玉自体をデジタルに変えればいい。そのためにこの電子義眼が作られたわけです。これを移植すれば理論上は治ります」
 医者は義眼を手の上で転がしながら、俺の目をじっと見つめている。その熱っぽい視線からはなにかいやな雰囲気を感じた。
 「理論上というと? まさかまだ実用されてないんですか?」
 「そうです。理論上ではこれを移植したところでなんの問題もないのですが、どうにもまだ治験してくれる方がいなのでそこで踏みとどまっているのです。なので学会に発表するにあたり、そこだけをクリアしてしまえば富と名声は私の手に入るのですよ。しかし、この病気もまだ発症者も少ない。そのために治験体を探していたところにちょうどあなたが現れた。これ以上にないタイミングです。どうせあなたはあと十四日もすれば失明するんだ。ならそのまえにこの電子義眼を移植させてもらっても別に構わないでしょう? なあにお金の心配はいりません。むしろあげてもいいくらいだ」
 
 医者は途中からどんどんと目の輝きがまし、鼻息も荒くなっていく。もしやこれはマッドサイエンティストの類ではないのか? そう気づいたがもう遅かった。矢継ぎ早に繰り出される言葉に返す言葉もなくなった。もはや断ったほうがひどい目にあうのではないのかと思われるほどの饒舌ぶりに、俺は治験をすることを了承してしまった。


 「それで、経過はどうです?」
 手術から数日後。目の包帯をとってから初めての往診だ。
 「ええ、包帯をとるまでは不安でしたけど、実際手術前と変わりありませんし、前よりも目が見えるようになってます」
医者はうんうんと満足げに頷いている。
 「ズームもできますし、ルーペを使わなくても小さい文字が見えるのは確かに便利なんですが、ただ……」
 「ただ?」
 「視界の端にデータ放送が見えるんですけど……」