夢幻忌憚
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ピチャピチャネチャネチャと音がする。何か粘り気のある物を捏ねるような、ギチギチと弾力のある紐を力任せに引っ張っているような、そして、グチャグチャペチャペチャとはしたない音を立てて何かを食べているような音も。
くすくすと、小さな声が響く。
口に頬張り鼻で息を漏らしたような、含み笑い。
そこには、赤き獣に跨がる男の姿。
削ぎ剥がした頭皮から覗く割れた頭蓋、飛び散った脳漿が酷い一際酷い臭気を放つ。濁った生気のない赤眼は恨めしげに上向き、首から下は胸で終わっている。その、切断面から男は何かを取り出して口に運んでいた。
まるで甘露を味わっているかのように微笑みながら。
ふと、男は何かを思いついたように視線を巡らせ、目的の物にひたりと宛がう。それは、哀れな少女の物言わぬ首。
「キク」
男は構わずそれを手に取り、愛おしげに口付けた。
「モウ、ダイジョウブ」
優しさと、労りの籠もった言葉はしかし、受け取る者はおらず。ただ、濁った紫の眼が己に口付ける男を見据えているだけ。
闇に浮かぶように底光り、赤く燃える眼がそこにあった。