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法定寿命~双つの世界~【前編】

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 私の曲は図(はか)らずも評判となりヒットした。私はこの世界へ来て、売れようと必死にもがいた。しかし今に至り、苦労は報われたのだろう。が、あまりうれしさは感じない。奇妙なことに私の今の状況と昔書いた歌詞がシンクロしているかのようだ。貧乏生活は抜け出せたが、もはや元の世界の頃のようにお金を贅沢(ぜいたく)に使おうとは思わない。そして私は相変わらず孤独であった…
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(えっと…、ここか。)

 私はあの立てこもり犯、いや、同じ世界から来た同胞(どうほう)の墓参りに来た。てっきり彼は無縁仏になっていると思っていたのだが、墓があると言うことは…

「すいません。」

 振り向くと三十代半ばくらいだろうか、スーツを身にまとった女性が立っていた。

「私、週刊ザ・真相の三宅と申します。昨年の立てこもり事件についてお聞きしたいことが…」

 事件から既に一年以上経過している。最近は事件に触れるマスコミはほとんどいなくなっていたのだが…

「悪いけど事件について何も言うことはないよ。もう終わったことなんだ、そっとしておいて欲しい。じゃ…」

 せっかくの墓参りを邪魔され私は少々腹立たしく思い、むっとした表情で女性の横を通り過ぎようとした。

「待って!…記者としてダメならば、小山の娘として…、お聞きしたいのですが…」

(娘?)

 そう言えば彼女の手には菊の花がある。

「あなた、彼の娘さん?」

「…どうしてもお聞きしたいんです。父の死に顔はとても安らかで…、父のあんな表情はそれまで見たことがありませんでした。一体あの日、何があったのですか?」

 彼女の目は潤(うる)み、その今にも溢(あふ)れそうな涙に私の心は揺れ動く。しかしこの世界しか知らない彼女に荒唐無稽(こうとうむけい)な話をしたところで果たして意味があるのだろうか?

「父とは長い間音信不通でした。しかし数年前、入院していると聞き、思い切って面会しました。でも…、でも父はあっちの世界だとかこっちの世界だとか訳の分からない話を繰り返すばかりで…」

「…お父さんはね、孤独だったんだよ。ただただ、話を聞いて欲しかっただけなんだと思う。私も長年孤独でね…、あの状況でヘンな話だけど、馬が合ったというか…」

「…そうですか。残された私たちも苦しかったのですが、父も父なりに苦しかったのでしょう。せめて私が受け止めてあげられてたら…でも、最後の最後で父は浮かばれたと思います。本当に、本当にありがとうございました。」

 私は深い礼をする彼女の肩に手を置き慰(なぐさ)めた。彼女から涙の匂いがした。私にはこれだけ自分のことを想ってくれる人はいない。少し、少しだけ、彼に嫉妬(しっと)した。