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隻眼の鳥

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カイ   高級官僚。弾圧する政府側の人間。ユーキらとは最も輝かしい時代を過ごした仲間。
ユーキ  鎖国し内戦を続ける母国を救うため、国を出て約束の地を探す。
リナ   カイの妻。ユーキらの後輩にあたる。
エルザ  枢機卿の娘。カイ、ユーキ、ユンとともに学生時代を過ごす。現在はレジスタンスの指導者。
ユン   レジスタンスの次席。
リード  カイの右腕。優秀な男。リナの弟。
老女
スバル


隻眼の鳥




早足で登場する男女

エルザ  この国はもう駄目だ。
ユン   エルザ、声が大きいって!
エルザ  ユンは見ただろう、国を守るべき兵が銃を向けたのは市民だ!
ユン   あなたは枢機卿の娘だ!
エルザ  そんなもの!
ユン   エルザ!
エルザ  世界を開こうとする動きは今後もっと大きくなるだろう。政府は力を失っている。この閉じられた小
     さな世界で生きていくのはもう限界なんだ。
ユン   でもあなたはそれを言っていい立場じゃない。
エルザ  立場だと? そんなものもうじき意味をなくす。この動きはやがて大きな動乱を引き起こす。世界は
     変わらざるを得なくなる。その動きを創るのは、私だ。
ユン   なんだって?
エルザ  世界を変える。
ユン   まさか。
エルザ  革命さ。こんな狭い世界でたった一握りの人間に支配されて生きるなんて、馬鹿げてる。

ユンとエルザが再び足早に去る。
リードとリナが出てくる

リナ   リード、待って、待ってったら。
リード  まだ何かあるの、姉さん。
リナ   それをあの人に言うのをもう少し待って。
リード  馬鹿言わないでくれよ。今まではただの小競り合い程度だったのがやけに組織化してきたと思ったら、
     主犯は枢機卿の娘だぞ。議会の半分以上はそちらについて離職した。こんな一大事、一刻も早く知ら
     せないと。
リナ   だけど、エルザはあの人の大切な友人よ。
リード  大切な友人がこんな真似するものか。あの人はな、将来この国の統治者となる人なんだ。みんなそう
     思ってる。
リナ   やめてリード!
リード  どくんだ姉さん。
リナ   嫌!
老女   何を騒いでいらっしゃるのです。
リード  ……あなたの大切なお嬢様がここからどいてくれないもので。
老女   さようですか。リナ様。いかがなされました。
リード  さぁどくんだ。
リナ   お願いリードを止めて。そのことは私からあの人に言うから……!
リード  姉さんいい加減にしてくれ。このことは僕が伝える。あなたは妻らしく、あの人の疲れを癒すことだ
     けに気を配ってくれ。それくらいしか―――あなたがあの人にできることはない。
リナ   ……。
リード  では。

リードが去る。
ややあって、リナも悄然と去る。

老女   昔話を、ひとつだけしましょう。それはまだ、この国が閉じられた世界であったころの話。地震、火
     山の噴火、洪水、そして起こった戦争。地上は人の住む世界ではなくなり、人々は地下へと潜った。
     その中で、「ノア」と呼ばれる極秘プロジェクトが進行していた。
     その昔、世界を流しつくした洪水から逃れるために神の啓示を受けて作られた巨大な方舟の名を冠す
     るそれは、その名が示す通り、あらゆる動物のつがいを乗せて、歴史の暗い海原へ帆を上げた。

老婆が舞台をゆずると、ユーキが出てくる。薄暗い部屋。


ユーキ  ……出ておいでよ。未来の総帥がこんなところをうろついてちゃだめだろう。

カイ登場。
ふたりのやりとりを懐かしそうに見つつ、老婆が退場

カイ   お前がこそこそしてるのが悪い。
ユーキ  見逃してくれるんだろう? このドアを開けるのは重大な犯罪なんだ。
カイ   まさか政府中枢に外の世界に通じるドアがあるとはだれも思わないだろうな。
ユーキ  私の探検癖もつくづく災いを呼ぶね。おかげで妙な誓約書を書かされた上大学を出る前に政府に縛り
     付けられた。お前と違って、進んで国家の中枢に入り込んだわけじゃない。
カイ   監視の目をかいくぐるなんてお手の物だろう? 反政府運動に飛び込みやがって。
ユーキ  なんだバレてたか。
カイ   もう行くのか。
ユーキ  うん。さよならの時間だ。
カイ   わかった。
ユーキ  薄情だね。
カイ   引き止めてほしい?
ユーキ  ……いや。
カイ   ユーキ。
ユーキ  なに。
カイ   ……ここから出て行くのは、お前だと思ってたよ。あの時から。
ユーキ  そう? まぁ、そうかもね。お前より私の方がよほど自由なつくりをしている。
カイ   外の世界は、暗くて、厳しくて、大きいと聞いた。
ユーキ  楽しそうだね。
カイ   お前にこの箱舟は狭すぎた。
ユーキ  ……そうでもないよ。
カイ   お前は外で、俺はここで。
ユーキ  ああ。たとえ姿が見えなくても。
カイ   内戦を終わらせる。開国だろうが鎖国だろうが、そんなことで同じ国の人間同士争うなんて馬鹿があ
     るものか。この国はいずれ開国せざるを得ないさ。なら、できるだけ平和にその日を迎えたい。
ユーキ  そんなこと言って良いの?
カイ   お前しか聞いてないからな。
ユーキ  したたかなもんだ。
カイ   気をつけて行けよ。
ユーキ  分かってるよ。それに、私に何かあったらどうせすぐ分かるんだろう。
カイ   だろうな。相変わらず感度良好だよ。
ユーキ  不思議だな。私の羽ペンが折れたと思ったらお前が腕怪我しているし。
カイ   俺の時計が止まったらお前は寝込んでた。
ユーキ  懐かしいな。エルザとユンと、四人でいつもつるんでた。
カイ   悪だくみを持ちかけるとたいていユンが一度は止めて、
ユーキ  エルザが押し切って、
カイ   お前が悪戯に輪をかける。
ユーキ  いつの間にか怪我をしたと思ったら次の日似たようなところをお前も怪我してたな。
カイ   ああ。
ユーキ  ……行くよ。
カイ   ……そうか。
ユーキ  なあ、カイ……二人で世界を見る未来を、思い浮かべたことがなかった?
カイ   ……。
ユーキ  私はまだ信じているんだよ。私の見る世界をお前が見て、お前の見る世界を私も見る未来を。
カイ   そのために、お前。
ユーキ  ……まさか。この箱舟は私には狭すぎたんだ、きっと。
カイ   ……ユーキ、俺は。
ユーキ  リナによろしく。大切にしろよ。
カイ   ……わかってるよ。
ユーキ  じゃあな。
カイ   ああ。

ユーキが退場

カイ   出て行って、そしてできることなら戻ってくるな。こんなくすんだ世界はお前には似合わない。お前
     が戻って来なければ、外の世界にはきっと約束の地が広がっている。お前が生きるにふさわしい、厳
     しくも輝かしい世界が。
     俺には眩しすぎる世界が。
     
激しい爆音とともに戦闘音、喧騒
周囲を状況を確認するようにカイが退場





喧騒が遠くに聞こえる。
レジスタンスの拠点。
作品名:隻眼の鳥 作家名:barisa