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Re;cry

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耳川  じゃあ今頃大阪に着いたんじゃないですか?!
雄介  お願いします、あの二人を……!
権田  ご連絡ありがとうございます! 一旦切ります、何かあればまた! ……くそっ、大阪だ!

半暗
権田・耳川退場

















11
叶内・ゆか登場

ゆか  わ、もう夜になってる。
叶内  中のほうが明るいくらいだね。

手をつなぎ、座る

叶内  これで、ひとつ叶ったかな。
ゆか  え?

権田と耳川が舞台後方に登場
二人を捜している様子
叶内、はっとして、ゆっくり微笑む
刑事は交差し退場

叶内  ゆか、ここで待ってて。
ゆか  ……うん。

叶内、客席側へ
ゆかに電話をかける

ゆか  ……はい。
叶内  もしもし。
ゆか  何なのよ。
叶内  電話、好きなんだ。
ゆか  変なの。意味わかんないなぁ。
叶内  ……ごめんな。
ゆか  え?
叶内  ゆかの、家族だったのに。
ゆか  ううん、叶内君が悪いわけじゃない。
叶内  ごめん。
ゆか  あやまらないで。私も謝らないから。
叶内  ……うん。
ゆか  また来たいね、水族館。結局イルカショーは見てないし。
叶内  小指のペディキュアも塗ってないし?
ゆか  日付が変わる瞬間のメールも、誕生日のお祝いも。
叶内  そうだね。

刑事二人が再び入場
耳川が叶内を見つけて指差す

叶内  ゆか、好きだって言ったっけ。
ゆか  聞いてない。
叶内  じゃあ、言うよ。

刑事二人、走って退場
叶内、電話を切りゆかに歩み寄る
ゆかのことを抱きしめる

叶内  好きだ。

叶内、すばやくゆかの後ろに回りこみ後ろから抱きしめる

叶内  ゆか、黙って、絶対に何もしゃべっちゃだめだよ。
ゆか  え?

刑事二人が入ってくる

権田  叶内君!

叶内、ゆかにナイフを突きつける

叶内  案外早かったですね。
権田  もうやめるんだ、こんなことは!
叶内  これは、一人の弱い男と、強くなりたかった女の子の物語…でした。
耳川  ナイフを下ろしなさい!
叶内  僕は、こうしてゆかを脅し続けていたんです。刑事さん。
権田  わかった、わかったからもうやめてくれ叶内君……!
叶内 (一瞬ナイフを遠ざけ、強くゆかを抱きしめる)ごめんね、ゆか。

叶内がゆかを突き飛ばした瞬間、権田・耳川はかねて用意していた銃を構える
叶内は耳川に向かって走り出す
暗転
銃声
叶内に照明 人影(兄)らしきもの

叶内  兄さん―――兄さん!

ゆか  いやああぁぁぁぁぁぁぁ!

全照

ゆか  叶内君、いや! いや!
権田  耳川被害者救出!
耳川  あ、あぁ、あ……!
権田  耳川!
耳川  は、はい!
権田  あんた! 救急車を2台呼んでくれ! 被疑者確保ォ! おい耳川なにやってる!
耳川  俺、撃って……!
権田 (小声で耳川に凄む)こいつは何を守ろうとしてた!
耳川  !
ゆか  叶内君、叶内君!
権田  耳川!
耳川  駄目です! あなたがそれをしちゃダメなんです……!
ゆか  だって叶内君が!
耳川 (かき消すように)被害者救出! 無傷です!


早百合 これが、この物語の結末……。相原加奈子殺害からわずか三日後のことだった。耳川刑事の、相原ゆかの記憶に残る叶内大樹という犯罪者の、これが全て。逮捕された叶内大樹は、相原加奈子を殺害したことについて一切弁明をしなかった。そして権田刑事は、叶内大樹がなぜ逃亡を図ったのかをついに問いただすことはしなかった。それをたずねてしまえば、彼が人生をかけて守ろうとしたものを壊してしまうから。権田・耳川両刑事は被疑者逃走、発砲の件に関して警察内部、マスコミからの批判・追及を免れ得ず、降格・減俸処分となった。権田刑事はかねてより用意していた辞表を提出。即日、受理された。そうして、四人の物語が終わった。

耳川  あの時ね、叶内君が、ゆかさんを抱きしめたように見えたんですよ。今でも、なんで撃ったんだろうって、わからないんです。だってあんなにきれいな抱擁、みたことなかったですから。

ゆか  助けてなんて言ったから、叶内君は撃たれちゃったんだって思った。足だったから命には関わらなかったけど、そんなことじゃない。私はただ守られただけだった。ただ、優しさをむさぼっただけだった。叶内君、ごめん。ごめん。




終章
雄介  早百合さん。
早百合 雄介さん、お久しぶりです。
雄介  無事、出版されるみたいですね。
早百合 ええ。取材にご協力いただき、ありがとうございました。私、どうしても兄の真実を明らかにしたかったんです。
雄介  大樹君が何も語らないうちに裁判の途中で亡くなって、もう十年が過ぎましたか。
早百合 はい。十年たっても、少年犯罪ってなくならないんですね。いろんなところにあの日の兄の悲しい姿があるような気がして……。
雄介  辛いことですね。
早百合 あの日の兄の叫びを、涙を受け止めるには私は幼すぎた……。今回こうして兄の足跡をたどってみて、兄がどれだけの苦しみを背負っていたんだろうって、胸が痛くなります。いまさらだとは思うけど、こうして彼の真実をまとめることで供養になるでしょうか。
雄介  きっと喜んでくれますよ。マスコミが好き勝手騒ぎ立てたあのときは、本当に酷かった。
早百合 ……ゆかさんは?
雄介  先に行っています。
早百合 そうですか。じゃあ私も行きますね。雄介さんは?
雄介  私は昨日行きましたので。
早百合 はい。じゃあまた寄ります。
雄介  気をつけて。……大樹君、あなたの命日には今もこうして花が飾られています。あなたの妹は、報道に携わる人になりました。そしてあなたが人生をかけて守った人は、私の店で働いてくれています。私は歳をとったけれど、相変わらず古本屋をしながらきままに過ごしています。今度、あなたの人生のほんの一部をつづった本が出版されることになりました。幼かったあなたの妹が、あなたの足跡を必死に追ってまとめたものです。……あなたの声が、きっと誰かに届く。ひとりがふたり集まれば、もうそれはひとりではありません。

半暗

ゆか  あの日、私たちは泣いていた。
権田  誰にも届かない声が
耳川  誰かに届くと信じて
早百合(耳を澄ませる)誰かの、泣き声が聞こえる。
加奈子 その声に耳を澄ませる
雄介  あの日の泣き声を聞き届けるために




Re;cry 完



80


作品名:Re;cry 作家名:barisa