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叶内(かのうち) 大樹(だいき)
相原 ゆか
小山(おやま) 雄介 古本屋の店主
富永 早百合 大樹の妹
相原 加奈子 ゆかの母親
権田(ごんだ) 正造(しょうぞう) 刑事
耳川 昴 刑事







序章
舞台中央だけが明るい。
中央に叶内、権田、耳川
周辺にそのほかの登場人物

叶内  僕が、やりました。
権田  どうして相原加奈子を殺さなきゃいけなかった。
叶内  僕が、やったんです。
権田  動機だ。頼む。どうして相原加奈子を殺した。
叶内  どうしてだって? あなたは……あなたなら、どうすると思いますか? あの場面で、あなたなら、どうすると言うんですか…?
権田  俺は……どんなことがあっても絶対に人は殺さん。絶対だ。
叶内  そうですね。普通の人間ならそうでしょう。自分は絶対そんなことをしないと思っているんです。思い込んでいるんですよ。僕だってそうだった。
権田  ふざけるな。自分が何をしたかわかってるのか! 人の命一つ分奪ったんだ。人の人生一つ奪ったんだぞ!
叶内  ふざけてなんていません! そんなこと、誰よりも僕がわかってます。僕は、それだけのことをしたんだって思います。だけど、間違いだったわけじゃない!
権田  間違いじゃないだと?! お前なら知ってるだろう、誰かの行いがほかの誰かの人生を狂わせることを! お前の家族は……妹はどうなる!
耳川  権田さん、落ち着いてください……!
叶内  僕のしたことは決して正解じゃないかもしれない。だけど、間違いじゃなかった! あのとき、僕に他に何ができたでしょうか。あなたならどうしたでしょうか! 僕には、殺すしかできなかった、ゆかをあの場所から引き離すには、あの人を殺すことしかできなかった。
権田  お前、相原ゆかのために人を殺したって、そういうのか?
叶内  ゆかのため……? はは、違いますよ。僕のためだ。
権田  なぁ、頼む。お前このままでいいのか。なぁ、いいのか。
叶内  僕は相原加奈子を殺した。理由は……そこに、あの人がいたから、ですよ。

権田が机を殴る
耳川が必死で止める
叶内は動じずただ権田を眺めている。

ゆか  いつも、少しうつむいて歩いている君が好きだった。
雄介  ひとりがふたり集まれば、もう、一人じゃない。
加奈子 一人にしないで。勝手なことばかり言わないで……置いて、行かないで。
早百合 あなたには、時間が必要だったのよ。

叶内  相原ゆかは、相原加奈子に縛られていた。家に帰る時間も、服装も、全部母親に決められていた。帰るのがほんの少し遅れただけで、相原加奈子は娘のクラスメートに片っ端から電話をかけた。休日に友達と遊びに行くことさえ禁じていた。毎朝出かけるときに、加奈子はまるで呪いの言葉を吐くようにゆかを抱きしめ、今日も必ず帰ってくるよね、お母さんを一人にしないよね、と言っていた。相原加奈子は、夫の暴力を受けながら、相原ゆかに依存しきっていた。僕は相原加奈子が嫌いだった。僕は相原加奈子が大嫌いだった。憎んでいた、蔑んでいた、殺したかった、邪魔だった。あの時、相原加奈子がいたから、僕は相原加奈子を殺した。
権田  俺はもう沢山だ。ふざけるな、そんな、そんな簡単になぁっ、そんな簡単にっ……!

権田、言葉が続かなくなり退場する

耳川  権田さん、権田さんっ?!

耳川退場

叶内  ……ごめんな。ゆかの、家族だったのに。
ゆか  ううん、叶内君が悪いわけじゃない。
叶内  ごめん。
ゆか  あやまらないで。私も謝らないから。
叶内  ……うん。
ゆか  また来たいね、水族館。結局イルカショーは見てないし。
叶内  小指のペディキュアも塗ってないし?
ゆか  日付が変わる瞬間のメールも、誕生日のお祝いも。
叶内  そうだね……ゆか。好きだって言ったっけ。
ゆか  聞いてない。
叶内  じゃあ、言うよ。

叶内  好きだ。

叶内退場

雄介  ゆか。彼に会ってきました。
ゆか  何か言ってた?
雄介  謝ってました。何度も、ごめんって。約束は守るからとも言っていましたよ。
ゆか  そっか……。彼がつかまる前にね。電話したの。そのときにも、すごく謝ってた。その時にはこんなことになるなんて思ってなかったけど。
雄介  そうですか。彼が罪を償って帰ってくるのを待ちますか?
ゆか  うん。沢山、約束してるし。
雄介  そうですか。
ゆか  ねえ、叶内君、帰って来るよね……?
雄介  帰ってきます。ゆか。
ゆか  ……うん……。

ゆか  お母さん。

加奈子 ゆか……。

ゆか  お父さんは、街から出て行ったよ。叶内君は逮捕されて、私はひとりになった。お母さん、私、あなたのような弱い大人になんかならないから。だから安心して。ちゃんと、そばにいるから。忘れないから。

ゆかと雄介、そして加奈子、それぞれ退場する

早百合 一月二十日、午後四時十五分、近くの消防署に通報があった。近所の家から尋常ではない悲鳴が聞こえて行ってみたら、女が腹部から血を流して倒れている。駆けつけた救急隊員は女を病院に搬送した。女の身元はすぐにわかった。相原加奈子、四十九歳。腹部に刺し傷があり、意識不明の重態。搬送から五時間後、午後九時五十六分、相原加奈子は息を引き取った。
権田 (殺人現場)なんか見つかったか。
耳川  今鑑識に回ってる最中なんでなんとも……。
権田  自分の家の台所でグサリか。強盗と、怨恨と両面だな。
耳川  通報者の話だと夫と娘と同居しているそうなんですけど、
権田  連絡は。
耳川  それが、どっちもとれないんです。
権田  なんだと?
耳川  被害者のケータイには娘への発信履歴が何件も残ってるんで連絡取ってみたんですけど、つながらないんですよ。
権田  おいおいおい。携帯だろ? 何で連絡つかねぇんだよ。もしかしたら娘のほうも巻き込まれてんのかもしれねぇな。いや、こっちが巻き込まれたのか? ったくお前、なんでそんなに落ち着いてんだよ。
耳川  はあ、神経荒縄でできてますんで。
権田  自慢じゃねえよ! とにかく娘を探させろ!
耳川  怒らないでくださいよ。聞き込みはこれからだし監視カメラとかは鑑識が持ってるんです。……わかりましたよ、聞いてきますよ。そんな睨まないでくださいよ、権田さんは顔が怖いんですから。
権田  ったく最近の若いやつは、緊張感のねぇ顔しやがって。
早百合 この事件はこうして発覚しました。彼の……後に、叶内容疑者として全国に実名報道される彼のことを語るには、まず、彼がどういう青年だったのかを語る必要があるでしょう。そして、被害者、相原加奈子とその家族も。そのとき彼が何を思い、彼女が何を成そうとしたのか、明らかにするには、この部屋だけでは十分ではなかった。
権田  近頃のやつは、簡単に人間一匹殺しやがる。絶対ゆるさねぇからな。命ってのは、他人のも自分のも粗末にしちゃいけねえんだ。おい耳川!
耳川  はい!
権田  よっく現場を見ろよ。刑事ってのは現場が基本だ。何一つ見落とすな。
耳川  現場百遍ですよね。わかってます。
権田  おい。絶対犯人挙げるぞ。
耳川  はい!
作品名:Re;cry 作家名:barisa