上海lovers
上海lovers
堀田(ほった) 満(みつる)
柳(りゅう) 美鈴(みれい)
安永(やすなが) 光太郎(こうたろう)
田代(たしろ) 寿々(すず)
藤沢(ふじさわ) 明(あきら)
田代 こんな夏になるなんて、思ってなかった。
安永 いつもどおりの朝が、いつもと違って見えた。
堀田 初めてだったんだ、何もかも。
柳 そう、それはまるで花火のように。
藤沢 仕掛けられたびっくり箱のように。
田代 何かが始まるのを待っていた私たちは。
堀田 何かを始めることに怯えていた僕は。
安永 導かれるように、
柳 この夏に出会った。
藤沢 初めてだったんだ。最初から、これが思い出になるって思った夏は。
藤沢が淡く微笑んで去っていく。
藤沢の背中をたっぷりと見送って、柳が出て行く。
堀田が出て行く。
田代が駆け出し、安永が最後に出て行く。
1.
堀田が小説を読みながら歩いている
反対から安永が出てくる
堀田の足取りを安永がことごとく遮る
堀田 なんなんだよ一体!
安永 堀田!
堀田 君だれ。
安永 ここであったが百年目!
堀田 ええっ?!
安永 脚本を書いてくれ!
堀田 ……はあ?
安永 堀田が地味に小説を書いていて地味に出版社に送って地味に地味な賞を受賞したのは知ってるんだ。だから堀田! お願いだ、脚本を書いてくれないか!
堀田 頼んでるの、けなしてるの。
安永 お願いしてるんだ。このとおり。
堀田 胸張ってこのとおりも何もないだろ……まず俺の質問に答えてくれ。あんたはだれだ。
安永 俺は安永光太郎。演劇部の主将見習いだ。
堀田 つまりただの平部員か。
安永 まあ、次期主将とでも言っておこうか。
堀田 つまりただの平部員か。
安永 つまりただの平部員だ。
堀田 びっくりした。いきなりここであったが百年目とか言うから仇討ちされんのかと思った。なんなのあんた。俺の何? ここにはどういう関係性がはたらいてんの?
安永 俺の何。哲学的な質問だ。
堀田 わかった、あんた馬鹿なんだ。
安永 そんなことないぞ! まあ、演劇馬鹿とは、よく言われる。
堀田 なんでそんなに自慢げなんだ。質問を変える。なんで、急に、俺のところに、しかも脚本を書けだなんて?
安永 俺たち、一緒のクラス取ってるんだ。知らないか?
堀田 ってことはあんたも1年?
安永 そうだよ。
堀田 うそだ、絶対うそだ!
安永 なんで!
堀田 なんだよその貫禄! てっきりひとつやふたつ上の学年かと思ってた!
安永 歳は多分上だなー俺3浪してるから。
堀田 そんなに?!
安永 そして今年2度目の1年生だ。
堀田 やっぱりあんた馬鹿なんだ。
安永 演劇馬鹿とは、よく言われる。
堀田 そういうところも馬鹿なんだ。
安永 そういうところもってなんだ!
堀田 大学生として。人間として。哺乳類として。脊椎動物として。一生命体として、全体的に、馬鹿なんだ。
安永 ほ〜……。
堀田 感心なさってますけども。
安永 やっぱり脚本書いてよ。
堀田 やだよ面倒くさい。
安永 きっと面白いって!
堀田 やだってば。
安永 お前と話してるの、面白い。言葉のセンスっていうかな。いいよ、うん、いい!
堀田 面倒くさいのやなんだよ俺!
安永 書いてくれなきゃ駄々こねるぞ!
堀田 は?!
安永 書いてよーねー書いてよー。かーいーてー! 書いて書いて書いて書いて書いてー! 書いてくれなきゃここから動かないぃ〜!
堀田 面倒くせぇぇぇ!
安永 どうだ。お前が書いてくれるというまで延々とこれを繰り返すぞ。ご飯でもトイレでも寝る前でもデート中でもお構いなしにやり続けるぞ!
堀田 あんた最悪だよ!
安永 だから書こう? あ、わかった。とりあえず部室に来いよ。みんなの顔見たら、意外と書く気が起こるかもしれない。堀田のイニシアティブを刺激するなにかが!
堀田 イマジネーションな。
安永 インスパイラルを刺激する何かが!
堀田 イマジネーションな。
安永 インス、イン、インポータブルを……
堀田 わざとだろ。
安永 さあ行くぞ!
堀田 ちょ、行くとは言ってないって、おい、こら、離せ!
堀田たちが出て行った反対側から
田代 だーかーら! なんかどれもこれもピンと来ないんだってば。
柳 だれか書いてくれるといいんだけどな。
田代 こういう学生劇団って慢性的に脚本がたりない。
藤沢 そう言ってくれるなよ。
柳 藤沢が書けばいいじゃない。
藤沢 一応書いたじゃないか。
田代 だってあんな暗い話やだもん!
藤沢 悪かったな、暗くて。
柳 暗いのが悪いわけじゃないけど、季節感ってものがあると思うの。
田代 夏だよ? 世間は浮かれ騒ぐ夏休みだよ? これから暑くなって、海や山や遊園地には人があふれて、ひと夏のアバンチュールを決め込もうってそんな季節に、なんであんな人間のうらっかわを引っかくようなものをやらなきゃいけないの。
藤沢 アバンチュールって久々に聞いたな。ちょっと昭和が香るね。寿々。
田代 うるっさいな。
柳 あれはあれとして、今回の公演に使えるような脚本がほしいな。
藤沢 安永が心当たりがあるって言ってなかったっけ。
柳 親友が小説を書いてて、今度も快く引き受けてくれそうだって言ってたわね。
田代 多分絶対嘘だけどね。
藤沢 まあそうだろうな。
柳 きっとあの天然ぶった曲者トークではぐらかして強制連行してくるんでしょうね。
藤沢 安永の、さ。天然ぶりっこさ。
田代 最初、だまされたよね。
柳 だまされたわね。
田代 天然だって思ってたのに養殖だった。計算尽くだった。ロボット人間だった。
藤沢 あれだけ狙い済ましたボケをかましといて嫌われないんだからすごいよな。
田代 鬱陶しいけどね。
藤沢 けど嫌いじゃないだろう? 寿々。
柳 寿々も似たようなものだしね?
田代 あたしあんなに鬱陶しくないって。多分。
柳 はいはい。けど、前にコント書いて持ってきたじゃない? 安永君。
田代 あ〜…平然と持ってきたよね。
柳 あのボケとつっこみのやり取りをみて思ったの。ああ、この子は計算づくであの会話を組み立ててたんだなって。
一同、ため息。
三人 ……安永……怖い子。
安永 あっ、みなさん!
藤沢 おお、安永……と?
安永 よっくぞ聞いてくださいました! こいつです、新進気鋭の脚本家! な!
堀田 俺は書くなんて言ってない!
安永 お前本当にツンデレだなー。
堀田 なんでそうなるんだ。
田代 誰なの?
安永 ご紹介いたしましょう! 何を隠そうこいつが将来の芥川賞受賞予定作家にして新進気鋭の脚本家、ほっ……あれ、新田だっけ。
堀田 堀田。
安永 ああ、山田か。
堀田 堀田!
安永 失礼、野田君です。
堀田 本当に失礼なやつだな! 堀田! だ! っつってんだろ!
安永 そっか、堀田……堀田……なんだっけ。
堀田(ほった) 満(みつる)
柳(りゅう) 美鈴(みれい)
安永(やすなが) 光太郎(こうたろう)
田代(たしろ) 寿々(すず)
藤沢(ふじさわ) 明(あきら)
田代 こんな夏になるなんて、思ってなかった。
安永 いつもどおりの朝が、いつもと違って見えた。
堀田 初めてだったんだ、何もかも。
柳 そう、それはまるで花火のように。
藤沢 仕掛けられたびっくり箱のように。
田代 何かが始まるのを待っていた私たちは。
堀田 何かを始めることに怯えていた僕は。
安永 導かれるように、
柳 この夏に出会った。
藤沢 初めてだったんだ。最初から、これが思い出になるって思った夏は。
藤沢が淡く微笑んで去っていく。
藤沢の背中をたっぷりと見送って、柳が出て行く。
堀田が出て行く。
田代が駆け出し、安永が最後に出て行く。
1.
堀田が小説を読みながら歩いている
反対から安永が出てくる
堀田の足取りを安永がことごとく遮る
堀田 なんなんだよ一体!
安永 堀田!
堀田 君だれ。
安永 ここであったが百年目!
堀田 ええっ?!
安永 脚本を書いてくれ!
堀田 ……はあ?
安永 堀田が地味に小説を書いていて地味に出版社に送って地味に地味な賞を受賞したのは知ってるんだ。だから堀田! お願いだ、脚本を書いてくれないか!
堀田 頼んでるの、けなしてるの。
安永 お願いしてるんだ。このとおり。
堀田 胸張ってこのとおりも何もないだろ……まず俺の質問に答えてくれ。あんたはだれだ。
安永 俺は安永光太郎。演劇部の主将見習いだ。
堀田 つまりただの平部員か。
安永 まあ、次期主将とでも言っておこうか。
堀田 つまりただの平部員か。
安永 つまりただの平部員だ。
堀田 びっくりした。いきなりここであったが百年目とか言うから仇討ちされんのかと思った。なんなのあんた。俺の何? ここにはどういう関係性がはたらいてんの?
安永 俺の何。哲学的な質問だ。
堀田 わかった、あんた馬鹿なんだ。
安永 そんなことないぞ! まあ、演劇馬鹿とは、よく言われる。
堀田 なんでそんなに自慢げなんだ。質問を変える。なんで、急に、俺のところに、しかも脚本を書けだなんて?
安永 俺たち、一緒のクラス取ってるんだ。知らないか?
堀田 ってことはあんたも1年?
安永 そうだよ。
堀田 うそだ、絶対うそだ!
安永 なんで!
堀田 なんだよその貫禄! てっきりひとつやふたつ上の学年かと思ってた!
安永 歳は多分上だなー俺3浪してるから。
堀田 そんなに?!
安永 そして今年2度目の1年生だ。
堀田 やっぱりあんた馬鹿なんだ。
安永 演劇馬鹿とは、よく言われる。
堀田 そういうところも馬鹿なんだ。
安永 そういうところもってなんだ!
堀田 大学生として。人間として。哺乳類として。脊椎動物として。一生命体として、全体的に、馬鹿なんだ。
安永 ほ〜……。
堀田 感心なさってますけども。
安永 やっぱり脚本書いてよ。
堀田 やだよ面倒くさい。
安永 きっと面白いって!
堀田 やだってば。
安永 お前と話してるの、面白い。言葉のセンスっていうかな。いいよ、うん、いい!
堀田 面倒くさいのやなんだよ俺!
安永 書いてくれなきゃ駄々こねるぞ!
堀田 は?!
安永 書いてよーねー書いてよー。かーいーてー! 書いて書いて書いて書いて書いてー! 書いてくれなきゃここから動かないぃ〜!
堀田 面倒くせぇぇぇ!
安永 どうだ。お前が書いてくれるというまで延々とこれを繰り返すぞ。ご飯でもトイレでも寝る前でもデート中でもお構いなしにやり続けるぞ!
堀田 あんた最悪だよ!
安永 だから書こう? あ、わかった。とりあえず部室に来いよ。みんなの顔見たら、意外と書く気が起こるかもしれない。堀田のイニシアティブを刺激するなにかが!
堀田 イマジネーションな。
安永 インスパイラルを刺激する何かが!
堀田 イマジネーションな。
安永 インス、イン、インポータブルを……
堀田 わざとだろ。
安永 さあ行くぞ!
堀田 ちょ、行くとは言ってないって、おい、こら、離せ!
堀田たちが出て行った反対側から
田代 だーかーら! なんかどれもこれもピンと来ないんだってば。
柳 だれか書いてくれるといいんだけどな。
田代 こういう学生劇団って慢性的に脚本がたりない。
藤沢 そう言ってくれるなよ。
柳 藤沢が書けばいいじゃない。
藤沢 一応書いたじゃないか。
田代 だってあんな暗い話やだもん!
藤沢 悪かったな、暗くて。
柳 暗いのが悪いわけじゃないけど、季節感ってものがあると思うの。
田代 夏だよ? 世間は浮かれ騒ぐ夏休みだよ? これから暑くなって、海や山や遊園地には人があふれて、ひと夏のアバンチュールを決め込もうってそんな季節に、なんであんな人間のうらっかわを引っかくようなものをやらなきゃいけないの。
藤沢 アバンチュールって久々に聞いたな。ちょっと昭和が香るね。寿々。
田代 うるっさいな。
柳 あれはあれとして、今回の公演に使えるような脚本がほしいな。
藤沢 安永が心当たりがあるって言ってなかったっけ。
柳 親友が小説を書いてて、今度も快く引き受けてくれそうだって言ってたわね。
田代 多分絶対嘘だけどね。
藤沢 まあそうだろうな。
柳 きっとあの天然ぶった曲者トークではぐらかして強制連行してくるんでしょうね。
藤沢 安永の、さ。天然ぶりっこさ。
田代 最初、だまされたよね。
柳 だまされたわね。
田代 天然だって思ってたのに養殖だった。計算尽くだった。ロボット人間だった。
藤沢 あれだけ狙い済ましたボケをかましといて嫌われないんだからすごいよな。
田代 鬱陶しいけどね。
藤沢 けど嫌いじゃないだろう? 寿々。
柳 寿々も似たようなものだしね?
田代 あたしあんなに鬱陶しくないって。多分。
柳 はいはい。けど、前にコント書いて持ってきたじゃない? 安永君。
田代 あ〜…平然と持ってきたよね。
柳 あのボケとつっこみのやり取りをみて思ったの。ああ、この子は計算づくであの会話を組み立ててたんだなって。
一同、ため息。
三人 ……安永……怖い子。
安永 あっ、みなさん!
藤沢 おお、安永……と?
安永 よっくぞ聞いてくださいました! こいつです、新進気鋭の脚本家! な!
堀田 俺は書くなんて言ってない!
安永 お前本当にツンデレだなー。
堀田 なんでそうなるんだ。
田代 誰なの?
安永 ご紹介いたしましょう! 何を隠そうこいつが将来の芥川賞受賞予定作家にして新進気鋭の脚本家、ほっ……あれ、新田だっけ。
堀田 堀田。
安永 ああ、山田か。
堀田 堀田!
安永 失礼、野田君です。
堀田 本当に失礼なやつだな! 堀田! だ! っつってんだろ!
安永 そっか、堀田……堀田……なんだっけ。