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空のくじら

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博士  江戸時代の観光名所と言ったらどこかね。
宮古  江戸……なんじゃないですか?
博士  ここはどこだ。
宮古  あたしが知るわけないでしょ。
博士  君。答えたまえ。
おまさ あたしっ?
博士  他に誰がいる。
おまさ はぁ、すみません……。
博士  ここはどこだ。そして江戸とはどこだ。どう行けば江戸に着く。
おまさ 江戸って言ったら、そりゃ、ずーっと川を下った先の……。
博士  どの川だね。
おまさ 川って言ったら川だよ。
博士  予習がなっとらんな。
宮古  この場合予習がなってないのは私たちですよ。
博士  埒が明かん。宮古君。
宮古  はいなんでしょう。
博士  腰が痛い。
宮古  ……でしょうねぇさっきからそればっかりですものね博士。埒か明かないのはどっちです
    か。
おまさ だから、まずあたしの質問に答えてよ、あんたたち何者なんだい。

片江  おまさー!
おまさ 旦那!
片江  すまない、待たせたな。
おまさ 大して待っちゃいないよ。
片江  ……知り合い……か?
宮古  はじめまして?
片江  お初にお目にかかる。
宮古  初めて会った気がしないんだけど。
博士  宮古君。
宮古  博士も気付いた?
片江  せ……拙者の顔になにか?
宮古  私たち、とんでもないもの忘れてきちゃったみたい?
博士  まぁ青木君なら強くたくましく生きるだろう。
宮古  博士、青山君です。
博士  どちらでもかまわん。
宮古  名前という唯一のアイデンティティを否定しましたか。
おまさ あいで……?
片江  おまさ、この人たちは一体なにを?
おまさ わからない。
片江  失礼だが、あなた方は?
博士  君に説明しても分からんと思うが。
宮古  博士って呼んであげてくださいとりあえず。私は宮古。
片江  その奇妙ないでたち……おまさ、大丈夫なのか?
おまさ あたしもよくわかんないんだよ旦那、いきなりおっきな音がしたと思ったらこの人たちが。
片江  なに? よもや、世の太平を脅かすテロリストなるものではあるまいな。
宮古  この時代にテロリストって言葉ないでしょ。
博士  私の発明をテロだと?! 今すぐ発言を撤回したまえ! 頭の悪い官僚共め!
宮古  博士論点そこじゃない。
片江  あやしいやつらめ……ここで成敗してくれる。おまさ、さがっていなさい。
おまさ 旦那!
宮古  えええええちょっと待ってよあたしたちそんな危険じゃないんだってば!
片江  ええい黙れ!
宮古  黙るもんですか聞いてもらえるまで言い続けてやるわよあたしたちはね! 未来からや
    ってきた旅人なの善良な一般市民なの、この頭のいかれた博士はともかくあたしは!
博士  どさくさにまぎれて悪口を言うな。
片江  未来だと? 世迷い言(よまいごと)を。
博士  だから君に説明してもわからんと言ったのに。
宮古  なに悠然と構えてんですかあんたはっ!
おまさ 旦那殺生はだめだよ!
片江  おまさ下がっていなさいと言っただろう!
おまさ さがりません!
宮古  そーだそーだ!
博士  ところで君。見たところ侍のようだが。
片江  いかにも。拙者は武州(ぶしゅう)藩士片(はんしかた)江(え)吉左衛門兼頼(きちざえもんかねより)が二子、片江尚五郎兼(かたえなおごろうかね)輔(すけ)である。
博士  宮古君。
宮古  はい(撮影)
片江  ……なんだそれは。
博士  ああいい気にするな。
片江  気になるわっ! ええいこしゃくな―――!
おまさ 旦那おちついて!
宮古  ストップストップ!(中学生レベルでも分かるほどでたらめな英語をまくしたてる)
片江  な、何だ一体!
おまさ わかんないよぅ、わかんないけど旦那、やめといた方がいいって!
宮古  (若干息切れ)理解していただけたかしら!
片江  ああ理解できないことが理解できた。
宮古  結構よ。
博士  つまり我々は、君たちになんら興味はないしこの時代に用事もない。
片江  一足飛びに結論に行くな! 未来、と言ったな、女。
宮古  宮古ちゃんですぅ。
片江  宮古!
宮古  呼び捨てかい。
片江 (刀に手をかける)
宮古  やぁん冗談じゃなーい。怒らないの、怖いんだからぁ。
片江  遊び女(あそびめ)のような口をききおって……。
おまさ 旦那、冷静に。
片江  うむ……未来と申したこと偽りはないか。
博士  君に嘘をついて一体何の得になるというのだね。
おまさ じゃ……じゃあ、ペニシリンを作ったりとかするのかい?!
宮古  それは別のドラマの話。
博士  そんなもの作るのはたやすいが諸君らに使えるとは思えんな。
片江  聞きたいことがある。
宮古  ……なに?
片江  この国の行く末だ。
博士  なんだ最もくだらない質問だな。
片江  なに?!
おまさ 旦那!
博士  それを知ってどうする。
片江  どうとは。
博士  まず君の意見から聞こうではないか。
片江  私は一介の藩士であるからして、お国のことに口出しをすることなどもってのほかだ。私
    はただ、お上の命に従うまで。
博士  ならそれでいいではないか。
片江  しかし―――
博士  未来を知って例えばどちらか有利になる方に付く、などということのできる器用な男には
    見えん。
片江  な、そんな卑怯な真似ができるか。
博士  では未来を知ろうが知るまいが結果は変わらん。ならば知る必要はあるまい。
片江  この国は、今のままでいいのか。一部の人間が小さな部屋の中でこの国の行く末を議論す
    る。町人や農民がどのような暮らしをしているかも知らないごく一部の人間がだ! 生ま
    れた時からたくさんの大人に囲まれ政(まつりごと)の世界しか知らない連中だ、米の値段、塩の値
    段ひとつ知らぬ者がどうやって良き未来へ導くのだ。
博士  ふむ、その通りだな。
宮古  博士、さっさとメンテナンスすませてしまいましょう。
片江  待て、まだ話は終わってない!
宮古  あのさぁ、あたしたちは良いんだけどさ。先にあなた、用事すませた方がいいんじゃない?
片江  は?
宮古  女の子隣においといて政治の話はないと思うわよー。
片江  おまさ、すまん!
おまさ 良いよ。旦那があたしたちのこと考えてくれてるんだって知ってるもん。
宮古  まあ健気。
片江  からかうなっ!
宮古  おお怖。さ、下世話な真似はこの辺にして博士行きましょう。
博士  宮古君、先に始めていたまえ。
宮古  なぜです?
博士  ちょっとそのへんを、
宮古  ぶらぶらなんてさせませんよ博士。
博士  だから後ろ襟掴むな! 猫か!
宮古  だから博士風情が猫かたるなんて猫に対して失礼にも程がありますってば!

博士 宮古退場

おまさ なんだか、凄い騒ぎだったね。
片江  すまなかった。ところで―――
おまさ ちゃんと持ってきてるよ。はい、頼まれた品物。
片江  これは?
おまさ そ、それは、ほら、その、あれだよ、あー、あのちょっとばあやがおはぎ作りすぎちゃっ
    てさ!
片江  そうか。開けても?
おまさ あーっだめだめ旦那っ!
作品名:空のくじら 作家名:barisa