ベッドぎわの会話
となりの奴が話しかけてきた。
「ないよ」
「新鮮な空気を吸ったことはあるかい?」
「昔少しだけ」
「そうか、僕もだ。あぁ、あの大きな空の下にいきたい」
毎日、同じ時間に同じような会話をする。ある時から奴はいつも、おいらの近くにいる。
おいらはずっと室内に引きこもってきた。多分これからもそうだろう。
あきられたのか、最近は頭を叩かれずにすんでいる。
安らかな生活を送っているというわけだ。
「ねえねえ、真赤に咲くバラを見たことはあるかい?」
時がたつのは早い。時間を早く感じる。
「ないよ」
「カレーライスの匂いをかいだことはあるかい?」
「…昔な」
なんか疲れてきたようだ。声もかれてきた。
奴のいつものきまり文句が聞こえる。意識がもうろうとしてきた…。
某日、大規模テロにより、人体に有毒なウイルスが全世界にばらまかれた。
A氏は仕事を終えて、家に帰った。そして、いつも通りにシャワーを浴び、携帯電話を充電器につなぎ、電気を消した。
永遠の眠りについたA氏の横では、電池製時計と充電され続けている携帯電話が並んで
毎日同じ時間にアラームを鳴らすこととなる。