舞台裏の仲間たち 13~15
この西口滋夫は、本格的な画家志望です。
高校を中退した直後、当時大いに流行り始めたヒッピー族の一員となり
全国を放浪したあげく、東北地方で色白美人の啓子さんと知り合って
旅先でそのまま結婚をしてしまいました。
小山くんのほうが主に舞台美術を担当しています。
創作が得意な西口くんは、ポスターやチラシなどを中心に、主に外部宣伝用の
資料作りなどを一手に引き受けていました。
今日ようやく、その復活公演用のポスターが書きあがったみたいです。
その絵の初披露もかねて、西口くんが事務室へ顔を出し、
やがて時間をしめしあわせたかのように、時絵と座長も現れて、
数分遅れて、元気そうな茜までやってきました。
ころあいを見計らって、西口くんがポスターをひろげました。
濃紺色の背景の画面やや右寄りに、スポットライトを全身に浴びた、
真っ白い女性の裸像が描かれていました。
ひざまずいて上半身をねじり上げ、
両手は背中へと回して腰を引き、顎(あご)をあげたその顔は
はるかな宙を見つめていました。
どこかで見た覚えのある、女性の容姿でした。
「いいね、碌山(ろくざん)か。」座長が即座に反応をしました。
「明治の彫刻家で、荻原守衛の名作”おんな”だ。
まるで10年ぶりに復活をする、時絵の”つう”を象徴しているようだ。
うん、よく書けてる、いい出来だ。」
思い出しました。
出会ったのは、長野県・安曇野市・穂高に有る
ごく小さな美術館でした。
初めて見た瞬間に、震えあがるほどの感動を覚えた記憶がありました。
碌山美術館に展示されていて、近代彫刻の父といわれ
明治を代表した彫刻家・荻原守衛が最後に残した作品でした。
作品名:舞台裏の仲間たち 13~15 作家名:落合順平