泣き虫
葬儀を終えて、片付けをしている初夏の事だった。お袋の面影を片付けている時に、突然長男が来た。
昼食をちょうど終えた俺は、流しに食器を片付けた。線香を上げて、暫く世間話をした長男が話し出した。
「あの、ばあさんには参ったよなぁ〜」
長男はまだ13歳である。お袋は長い間入院中だ。
寂しくなると、小学校前の次男の手を引き3歳の俺をおぶって母の病院へ行ったそうだ。
暫く病室で話をして帰る。
その間、看護婦さんたちは次男の兄貴と俺の面倒を見てくれていたそうだ。
その看護婦さん達に囲まれている写真を見た事がある。
病院からの帰り道の途中に橋が架かっていて、長男は辛くて俺達二人を連れて川に入ろうかと橋を通る度に思ったそうだ。
そして、病院の方を見ると母が、じっと自分を見て居てとても出来なかったと話してくれた。
「まったく・・・ばあさんは知ってたんだよなぁ〜」
俺は、話の途中で食器を洗い出した。顔を見る勇気が無かったのだ。
「兄貴、川に入らないで、ありがとう」 こう言うのが精一杯だった。
「おう、帰るぞ」いつもの、言葉だ。
俺は、振り向く事さえ出来なかった。
ただ、食器を洗い続けた。 もう少しお袋と一緒に居たかった。