小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

密室の中

INDEX|5ページ/5ページ|

前のページ
 

解決


「今回は、密室の謎だけだったので、意外と早く済みました」
「その前に、何で私をここに呼び出したか、説明して下さい」
「あなたはミステリーをよく読みますか」
「…まあ、好きですけど…それが何か?」
「なら、あなたをここに呼び出した理由は、お判りだと思うんですが……」
「三郎さん、少し早くして下さい」
 横から谷町警部に口を挟まれる。
「黙ってて!」
 思わず怒鳴ってしまった。
「十月四日の晩、『コロビアン』編集部のビルの下で、交通事故があったのはご存知ですよね」
「ええ」
「もちろん編集部員は全員、気になって見に行ったはずです。――あなた以外は」
「……」
「つまりあなたは、事故が処理されるまでの三十分の間に、自動車を飛ばして高野さんのこの自宅に行き、高野さんを殺害し、密室を作り上げたわけです」
「……」
「では、本題に入ります。密室の謎です」

「――どんなに難しい謎でも、解かれてしまうと、なあんだ、子供騙しじゃないか、とあくびが出るようなのが多いです」
「……」
「なので、注意して、ゆっくりお聴き下さい」
「……」
「そもそも密室とは、必ずしも犯人が作り上げるものではありません」
「……?」
「おい、そりゃどういうことだ?」
「つまり、」

「被害者が作り上げる密室もあるということです」

「……え?」
「そりゃないだろう?」
「被害者が即死でなかった場合は、そういうケースもあります」
「ふーん…でもそれが今回の密室と、どういう関係があるんだ?」
「大有りですよ。今回の密室は、高野さん自身が作り上げたんですから」
「えええっ…」
「神田さん。あなたは、部屋の外で高野さんを刺したんですね。そして、高野さんは部屋の中に逃げ込み、ドアに鍵をかけ、さらに厳重に、窓にもロックをかけたんです。しかし、そのまま絶命してしまった…。これで自動的に密室の完成――」
「ちょっと待て。もしそうだとしたら、部屋の外の廊下に血痕が付いてるはずなんだ。なのに、廊下には、そのような跡は何一つ残っていなかった。どういうことだ?」
「それは、廊下の表面をよく見ればすぐに判ると思います」
「?」
「判りませんか。ワックスですよ」
「ワックス?」
「ここの大家さんに訊いてみると、六日前にかけたばかりだそうです。ワックスは固まると、表面がツルツルになりますよね。その状態だと、血が落ちても、すぐサッと拭けば、血痕は残りません」
「そう…面白い発想ね…。でもそれは!この事件が他殺だったということを証明しているだけで!私が犯人だったということの証明にはなってない!」
「本当にそうでしょうか?」
 そう言うと三郎は、ポケットから一つの封筒を取り出した。
「……何です?これは…」
「この部屋に落ちていた遺言状です」
「そう…それが?」
「残念ながら神田さん。この遺言状を証拠として出した時点で、犯人はあなたに限定されるんですよ」
「何言ってるの?」
「遺言状を読み上げてみましょうか」

  はんにんはかんだひかる

「……凄いですねえ、高野さんは。ナイフで身体を刺されたというのに、精神力だけでこの遺言を書き、あの奥さんの写真が入っているフレームに隠したんです。警察は気づかなかったようですがね」
 三郎は神田の方を見た。もうすっかり、神田は魂が抜けてしまっているようだった。
「さて……、」
 三郎は微笑して、言った。 
「犯人は誰でしょうか?」
作品名:密室の中 作家名:悠介