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天の卵~神さまのくれた赤ん坊~【前編】 Ⅱ

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 それを見ると、余計に空しい想いが胸にひろがってゆくのは、どうしようもなかった。自分たちを繋ぐのは身体の繋がりだけ、直輝は自分に対して、大切なものを見せても良いと思える人間だと思うほどの価値を見出してはくれなかった。それは信頼という言葉で置き換えても良いかもしれない。
 夫は十三年間、連れ添った妻よりも有喜菜をより信頼していたのか。
 身体だけの繋がりなんて、何の意味もない。直輝と有喜菜は確かにただの友達にすぎなかったのかもしれないけれど、彼は有喜菜に、恋人であり妻でもあった紗英子には見せられないほど大切なものを見せていた。しかも、今から二十三年も前に。
 紗英子は彼との間に二十三年分もの月日を積み重ねてきたのに、実は、その重みは彼にとっては何の価値もなかったということだ。
 百歩譲って、それが言い過ぎだとしても、結局、紗英子と直輝の二十三年間は、有喜菜と直輝のたった一年間にも及ばなかった―そういうことだろう。
 ヒーターが効いているはずなのに、俄に室内の温度が下がったような気がする。紗英子は思わず小刻みに身体を震わせ、慌てて上掛けを顎の上まで引き上げた。
 その拍子に、上掛けが剥き出しになった乳房を掠めた。さんざん愛撫されて、敏感になった乳房の突起が布に触れる刺激にも、ぞくぞくする。
 直輝によって火の点された身体はなかなか静まってくれない。そのこともまた今の紗英子には、やるせなさと哀しみをもたらした。