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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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私に還る日

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 暖野はマルカの背中を見ながら歩いた。黙っていると必要以上に長く歩いているような気がしてくる。前方がこれまでよりも明るく見えてきて、ようやくこの道が終わるという実感が湧いた。
 そう、終わりなのだ。本当に。二人が森を抜けると、この道自体が消えてしまうのだから。
 広場に出て、暖野はようやく息をついた。
 暗い森の中を歩いてきたために、街の灯りはとても明るく感じられた。彼女の暮らす街とは比較にならないほど明るさは足りないが、それでも街の灯は頼もしいものだった。
「街を見て回ることは諦めましょう」
 マルカが、例の石像の前で言う。「でも、少しばかり遠回りすることだけは許してください。同じ道を二度通るのは、ノンノも嫌でしょう」
 マルカはどうしても街を見せたいらしい。このまま真っ直ぐ駅へと向かいたかったが、暖野はそれに同意した。早く帰りたいのは山々だが、急いだからといってすぐに帰れる保証は何もないのだ。
 マルカは森を右に見る道を選んだ。駅の方を向いて右側の道だ。これも路面電車の線路が続く石畳の道だった。家々には灯火はなく、街路燈だけが道を照らしている。道の右側も、少し行くと建物が続くようになった。
 建物は相変わらず古風なままだ。オレンジ色の灯りとはいえ、高速道路や国道の街灯とは雰囲気が全く違う。どこか古いモノクロ映画に出てくるヨーロッパを想起させる。
「本当に、誰もいないのね」
 暖野は呟いた。
 まるで深夜のようだった。誰もが寝静まった街。しかしここは違った。住む人のいなくなった街。犬の声さえ聞こえない、道を横切る猫さえいない、生命の息吹が失われた街なのだ。
作品名:私に還る日 作家名:泉絵師 遙夏