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天空詠みノ巫女/アガルタの記憶【二~三】

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 人からの餌を求めて、カモメとハトの群れが混在する港――とはいっても、そこは既にに河口であった。
 四隅にブロンズ像が立ち並ぶ中心街へと繋がる橋の袂……観光客相手のショッピングモールが隣接する護岸に彼らは佇んでいた。
 夕日が落ち往くのを眺め、異国の旅人然とした男達が三人。
「これは見事!」
 肩までかかる長いブロンドの髪をかきわけながら、一番長身の男が海に沈み行く落陽を見て一人感慨に酔いしれている。
「もう、つまんないよ……寒いし。早く終わらせて帰りたいんだけど?」
 中でも一番背が低く、深く被った帽子をもっと押さえつけながら少年が呟く。
「ジュエル君。キミはもう少し、情緒を味わう気質を持たなくてはいけません。見て御覧なさい?この素晴らしき景色を!これこそ『地球の美』というものではありませんか!」
「別に、観光に来たわけじゃないし」
 ブロンドの長髪に『ジュエル』と呼ばれた少年は、少し膨れっ面になった。
「ねえ、ハヤト。まだかかりそう?」
 仕方なくもう一人の日系に近い風貌の異人に声を掛ける。
 その彼は、先ほどからタブレット型の端末を手に何かをひたすら操作していた。
「……ジュエル、もう少しスタンと遊んでいてくれないか?目標の捕捉に少々手間取りそうなんだ」
(『生体反応(マーカー)』は生きている……と言うことは、やはり時間か?『想い』を繋ぎ留めておくには、一年は少し長過ぎた……ということなのか?)
 『ハヤト』と呼んだ青年にそう言われて、ジュエルは渋々『スタン』と呼ばれた長髪ブロンドの方へと赴く。
「ねえ、スタン。ソフトクリーム食べたくならない?ここの『超うまい!』って、ネットに書いてあったからさ!」
「ジュエル君。キミは先ほど私に、『寒い』と言いませんでしたか?」
「……ああ、そうね」
「ジュエル君。私の記憶が確かなら、キミは私にこうも言ったのですよ。我々は『観光に来たわけではない』と」
「……もういいよ」
 ジュエルは全てを諦めた。
「ジュエル君。ここはね、アルザルのアルザルによるアルザルの為のアルザルの街なのです。いわば、『結界都市』……という訳です。リゲリアンやレティキュリアンはもとより、インセクトイドらには決して侵入することのできない『彼らの聖域』。しかし、それ以外の者……我々ノルディックやレプロイドのように、一見『人の姿』をした者にはその効果は無に等しい。でもね……そんな我々とて、この地に一歩踏み入った途端『外国人(エイリアン)』には違いないのです。ただこうして立っているだけでも、非常に『目立つ存在』なのですよ」
 スタンは裕次郎ばりに係船柱に足を掛け、マドロススタイルで語った。
「わかってるよ。僕らは『ガイジン』ってことだろ?」
「この周辺は露西亜人も多いからね。表向きはそれほど気を使うこともなかったさ……」
 ハヤトは二人の会話に割って入ってくる。
「よし、見つけた!まあ、あまり派手に動かないに越したことはないけどね」

 三人は向かい合うと、これからの段取りを確認し合った。
「――では、当初の予定通りに。私はそこの植物園で、人目につかぬよう『空間転移の元座標(ターミナルポイント)』を作成し『門(ゲート)』を開きます」
 そう言うとスタンは早速、持っていたキャリーバッグを開き始めた。
「転移先は、八百メートルほど沖合いに停泊中の貨物船ヴォストーク号でよろしいですね?」
「ああ、OKだ。我々と目標が一緒に転移した後、それで横須賀まで行く。そこで米軍機に乗り換え脱出する手はずになっている」
 ハヤトはタブレットを片手に説明に加わる。
「では、ジュエル君は――」
「僕は、目標の護衛も兼ねてハヤトと一緒に行くよ。スタンとここに残ってもつまらない」
「実に率直な意見をありがとう。いいでしょう、ただし時間厳守でお願いします。座標作成に三十分。門の空間維持に一時間。これから、一時間半がタイムリミットです。くれぐれもお忘れなく」
 互いの顔を見やると三人は向かい合い、それぞれの右腕の二の腕をつかみ合って三角形を作る。
「「「グット・ラックを!」」」

(一年ぶりか……)
 ハヤトは街中へ向かって、歩を進めるのであった。

               ☆

 織子と唐突に(強制的に)別れた香津美は、ずっと思案を巡らせていた。
 この正体不明のストーカー男を、どうやって撒いてやろうか?……と――帰宅路を一定の距離を保ったまま付かず離れず、かといって謎の転校生、倉田鞍馬は必ず視線の届く範囲に居た。
(でも、確かに見覚えもある気がするのよね……)
 そんな香津美の目の前に、タイミング良く市内を循環するバスが止まった。
 これだわ!と思った刹那、彼女はそれに飛び乗っていた。
(ひとまず、人の多い場所まで行って、後は折を見てタクシーで帰るしかないか)
 バスの車内から遠ざかっていく鞍馬の姿を確認した香津美は、ほっと溜め息をついた。
 その時……。
「久しぶり。元気だった?香津美」
 その懐かしい……そして聞き覚えのある声は、香津美に優しく問いかけてきた。
(そんな……うそ……)
 声の方に顔を向けた香津美の視線の先――彼女の目の前に立つ少年の姿は、誰よりも一番に逢いたかった『あの時のいつもの笑顔』で佇んでいたのだった。


「三 出会い・わかれ・サイカイ(前編)」 了 次回…… 「四 出会い・わかれ・サイカイ(後編)」につづく