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箱篋幽明

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みちのく駅弁当


 夏休み、田舎に戻っていた私とフラミンゴはどうせならと一緒に帰ることにしていた。私たちの田舎は何故だか盂蘭盆が七月初めと早く、世間一般のお盆シーズンに上りの切符を取ったものだから、電車はスカスカで気持ちが良かった。しかし、ここで問題が一つ。一緒に帰るという約束をしたのは、私たちが地元で会ったその時。全席指定の切符は、都合よく隣同士なんてことは無かった。今居る車両には私しかいない、くらいのスカスカっぷりだから、指定席のことなんて気にしないで好きなところに座ることも出来たけれど几帳面な私たちはそれをせず、結局別々の車両に離れて座ることになった。駅ではあれこれ話しながら名物の駅弁を買って、嫌いなシシトウの天ぷらを食べてくれだの、その漬物はひとくち貰うだの約束をしていたのに、そういえば私たちは別々に座るのだと気付いたのはフラミンゴと別れ、切符を見ながら席を探している時だった。
 海沿いをひた走るこの電車の、しっかり海側の席を取った私は、ゆるく波打つ水面をぼんやりながめながらお気に入りのテクノポップを聴く。海水浴場にはならないだろうなというごつごつした岩場を抜けて、掘っ立て小屋の並ぶ漁場に出たあたりで、私の腹は鳴った。別にがまんしていたわけではないけれど、楽しみは取っておくものだ。窓のところに置いていた駅弁をビニールの袋から出して、私は一緒に買っておいたオレンジジュースの缶を振った。イヤフォンを外し、それから弁当の包みを開ける。そこに御在しますのは、そこで獲れた海産物の天ぷらだ。私は天丼に目がなかった。天丼、というよりは「丼もの」が好きなのだが。フラミンゴにあげる予定だったシシトウは蓋に除けて、箸を進める。やっぱり美味しい。ただ、エビは車エビじゃなくて良かった。食べるのが好きな割には、私の舌は安いもので、頭まで付いた肉厚の車エビよか安っぽくプリプリした輸入もので構わない。
 さあ、そのエビを食べようか、というところでゴオオオという重い音と共に視界が暗くなった。トンネルに入ったらしい。一気に空気が澱み心なしか息苦しい。それにしても、真っ暗だ。地下鉄だって、もう少し明るいだろう。山を無理やりくり抜いてるのだから仕方ないのかな。さっきまできらきら光を反射させる海を見ていたせいか、目が慣れない。窓を見ると、手を出せば触れるだろうという位置に石の壁があった。そこに映る、弁当を広げている私。その隣には、見たことのない女性。いやだ、目が合った。
 急に視界が明るくなった。トンネルを抜けたらしい。もちろん、隣に座る人などいない。座席を一瞥して、再び窓を見ると走ってきた線路が見える。海沿いのこの線路は地形に合わせて曲がりくねっているが、先までの道にトンネルの姿は無く、見晴らしの良いカーブが続いていた。ポケットに入れていたケータイが鳴った。マナーにするのを忘れていたらしい。さっきまで聴いていたテクノポップが流れて、誰もいないのに恥ずかしくなった。画面を見るとメールが一通、後ろの車両に乗っているフラミンゴからだ。「さっき、トンネルあったよね?」彼女も同じものを見たらしい。

作品名:箱篋幽明 作家名:塩出 快