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タマ与太郎
タマ与太郎
novelistID. 38084
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経費削減

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 リストラの波は我社にも確実に押し寄せてきた。50歳を過ぎた社員は次々と閑職に追いやられ、給料は頭打ちだ。仕事がある者はまだ恵まれている。ローパフォーマーは使い終わった乾電池みたいに容赦なく首を切られた。
 人生の夕暮れを迎えるにはまだ少し早い年齢で、彼らは家のローンや子供の学費とあらためて対峙しなければならなかった。
 ビジネスの世界では、「現状維持は後退に等しい」と言われるようになって久しい。だが50歳を過ぎた我々のような社員にとって、給料が下がらなかっただけでもよしとしなければならない。ましてやボーナスが少ないなどと嘆いている余裕などない。
 総務人事畑で20年以上勤めあげた俺の実績など、「会社の方針」という錦の御旗の前では、古ぼけた過去の残骸に過ぎない。51歳の今まで、それなりに辛酸を嘗めてきた。微力ではあるが管理職の端くれとして会社にも貢献してきたつもりだ。そんな俺にも「その時」がやってきた。
「山本君、ちょっといいかい」
 部長に呼ばれ、俺は1階ロビーの一番隅にある来客スペースに向かった。人に聞かれては困るような話をするならもう少し気の利いた部屋がある。それでもこのようなオープンの場所を選んだこと自体、会社側の意識の軽さがうかがわれた。
 部長の話は俺の異動についてだった。異動先は商品の入出庫を管理するシステムを操作する部門で、クビ同然で辞めていった同年代のローパフォーマー社員の後任ということだった。
 「課長」という役職名は辛うじて残るものの、当然部下など一人もいない。在庫管理と言えばそれなりに聞こえはいいが、要するに商品が発注どおり入ってきたかどうかを確認し、単純な入力作業を行う、誰でもできる簡単な仕事だ。
 俺は部長の話を聞き終わった後、活き活きとした表情を見せた方がよいのか、落胆した姿を見せた方がよいのか迷った。その裏で、「言いにくいことを言わなきゃならない部長も大変だな」などと思う冷静な自分がいることにも気づいた。
 今年は梅雨入りが早かった。5月の終わりだというのに、じめじめした鬱陶しい天気が続いている。俺の胸の中にも鬱陶しい雲が鉛のように広がっていた。部長の話を聞いてからその日は仕事をする気も失せ、定時でさっさと会社を出た。一杯飲んで帰ろうかとも思ったが、ヤケ酒になってもつまらないと思いまっすぐ家に帰った。
「というわけで、7月1日から部署異動だ」
「そう、でもクビにならなかっただけ良かったじゃない」
「いっそのことクビの方がすっきりしたかもしれない」
「何言っているの、50歳過ぎのおじさんの転職がどれだけ大変か、あなたが一番わかっているでしょ。あゆみだってあと2年あるし」
 あゆみというのは大学2年の娘だ。妻は冷静かつ客観的に物事を捉えることができる。楽観的というのではないが事実を事実として受け止め、良い方向へと考えを導いてくれる。俺なんかよりよっぽどサラリーマンに向いているかもしれない。妻と話しながら俺は2本目の缶ビールを開けた。
作品名:経費削減 作家名:タマ与太郎