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瑠璃 深月
瑠璃 深月
novelistID. 41971
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忘れられた大樹 後編

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その日の夜、祭りの準備が終ると、森の中からたくさんの「森の人」が現われて、様々な楽器を調えて踊り手や歌い手などが広場の中心に開かれた舞台の上に並んだ。そして、カレリの挨拶とともに、祭りは幕を開けた。
 様々な歌や踊りが披露され、いい匂いをたてる食事がふんだんに用意されて、村の広場は一気に祭りの宵に活気付いた。
 少年の命名の儀式もそこで行われた。
 祭りも終盤に差し掛かった頃、ナリアやセベルとともに、少年は広場の真ん中に案内された。
そこには笑顔をたたえて美しく着飾ったカレリが立ち、少年の足元に膝をついて、目線を合わせてくれた。
「今、ここに命名します。」
 カレリは、優しい声で言った。
 そして、緊張している少年の頬をやさしく撫でた。
「賢者ナリア、ならびに大地の名において、森の守り、ハルの加護を受けし少年に、この名を与えます」
 そして、カレリは立ち上がって、手に持っていた厚い紙を皆の前で広げて見せた。
 そこには、少年の見たことのない文字が三つ、書かれていた。
 カレリは、そこに書いてある名を読み上げ、その意味を説いた。
「ハマ。一つには、この森そのものであるハルより。そして、もう一つはわが友、サムより。そして最後の一文字は、この大地、そして、軍神の名より、その母音の文字を取りました。こちらへ、ハマ」
 言われて、少年は嬉しさに心を躍らせてカレリのもとへと歩み寄った。カレリは、ハマと名づけられた少年を優しく見つめ、そして、村中の歓声の中で胸を張って何度もその名を呼んだ。
 ハマは嬉しかった。
 この村にゆかりの深い人たちの名を、それぞれ一文字ずつもらえた。愛されている、歓迎されている、いや、それ以上に自分自身を誇りに思えた。
「ハマ、ぼくの名前」
 ハマは、口の中で、それを反芻した。
 そんな時、近くでハマとカレリの様子を見ていたナリアとセベルが、突然、村の人々の歓声や森の人たちの演奏を止めた。
 突然のことに、何があったのか分からずに、村人も森の人も、そしてハマやカレリさえも黙ってナリアのほうを向いた。
 すると、ナリアは、良く澄んだ声で、こう言った。
「今日は、わたくしから、この村に、贈り物があります」
「贈り物?」
 人々はざわめき立ち、そして、微笑むナリアをじっと見た。
 ナリアは、セベルとともに広場を抜けた。群がる人ごみは自然にナリアの行く手を見守るために道を空けた。
 すると、ナリアの行く手に、一人の青年が姿を現した。
 金の髪に、翡翠の瞳。
 容姿は端麗で、背は高く、そして、なにより、その面持ちはこの村の誰よりも優しく、その瞳はどんなシリンよりも澄んでいた。
 その姿を見て、広場にいたカレリは、息を詰まらせ、突然、口を覆って嗚咽を漏らした。
「泣かないで、カレリ」
 泣いたままうずくまるカレリの元に、青年はゆっくりと近づき、抱きしめた。
「サムが、この体に宿れと、そう言ってくれたから」
 青年は、嗚咽を漏らしたまま顔を上げたカレリに、キスをした。
 そして、そっと立たせると、涙を拭いてやり、周りに広がる人間たちを見回して、礼をした。

「今、帰りました」



                                       おわり