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瑠璃 深月
瑠璃 深月
novelistID. 41971
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忘れられた大樹 前編

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「それだけは駄目だ!」
 3人の間を抜けようとしたハルを、今度はずっと黙ったままだったロイが止めた。
 そして、その手でハルの腕をきつく握り、兄の持っていたナイフを奪い取って、ハルの喉元に突きつけた。
「あの森がなければ私達は食べてはいけない。貴殿が帰れば兄はまた再び森で迷うことになる。
それに、万が一ということもある。貴殿がその母木を焼いて、あの森を銀の森にしてしまわないとも限らない。貴殿を帰すわけには行かないのだよ」
「あの森は、私が守るべき森です。私が、この命にかけてでも、守らなければならない。殺したければ、殺しなさい」
「殺すわけには行かない。それは出来ないのだよ。さっきから言っているだろう、あの森を銀の森には出来ないと。だから私は、私達はこのようなことをしているんじゃないか」
「そうはいっても」
 ハルがロイの言葉を返すか、返さないかのその一瞬だった。 突然右の足に激しい痛みを感じた。ハルは声を上げ、足を押さえる。
 見ると、喉元に突きつけられていたはずのナイフが、ハルの右の脚を刺していた。
 鮮血が流れ、地面に落ちて染みていく。
「こうするしかないのですよ」
 刃をゆっくりと抜きながら、ロイは静かに言った。
 右足が異常に痛い。
 ハルは、突然体の力を失い、地面に倒れこんだ。
「この刃には即効性の毒が仕込まれています。あなたの命を奪うほどに強くはありませんが、すぐに消えてなくなるほど軽くもありません。毒が消えても、もう歩くことは叶わないでしょう」
 冷静な顔で言うロイは、そう言って刃の血を拭き、兄に返した。
 その時だった。
「悪いけど」
 三人の後ろで、声がした。
「そこをどいてくれないか」
 三人が振り向くと、そこにはハルが草原で出会った、あの青年がいた。
 薄暗い路地の中でもよく通る声に、鋭く前を見据える瑠璃色の瞳。そして漆黒の髪。地面に伏したまま、ハルが何かを呟いた。青年は、そのまま堂々と3人の兄弟たちの間に割って入り、ハルを助け起こした。
 不思議と、3人の兄弟はあっさり道を譲り、彼のその行動を許した。
「けが人を預かりたいんだ。俺は医者だから」
 そう言って、意識の絶えつつあるハルを抱いたまま、青年は3人の兄弟を見回した。
 すると、3人のうち男の兄弟はふと我に帰り、青年をぎろりと見た。
「医者が、こんなところに何の用だね」
 ロイが、再び兄のナイフを取り上げて言った。
 すると、兄は兄で、先程の拳銃を取り出して青年のほうに銃口を向けた。
兄、ハワードは拳銃を握り、弟、ロイはナイフを手にして、丸腰の二人の青年に襲い掛かっていった。まず、ハワードが一発、何のためらいもなしに目の前にいる医者の頭をめがけて引き金を引いた。すると同時に、弾はハワードの手に鋭い痺れを残して弾け飛び、向こう側の壁に当たって鈍い弾痕を残した。
 医者は、全く動じていない。それどころか涼しい顔をしてその頭を少し傾けていた。
「外した? 俺が?」
 密猟で鍛えた眼力とその腕前に自信を持っていたハワードは、急にうろたえた。そんなはずはない。こんな至近距離にいる大きな的を外すなんて。
 医者は、ハルを抱き上げると、スッと立ち上がって、言った。
「危ないな、いきなり撃つなよ。それはそうと、ここを通してもらいたいんだけど」
 その言葉に、酷くプライドを傷つけられたハワードは顔を紅潮させて、もう一度、今度は医者の額に銃口を突きつけた。歯を食いしばって引き金を引く。
 しかし、今度こそ完璧に標的の頭蓋を通り抜けるはずのその弾丸は、再び外れて向かいの壁に二つ目の弾を埋め込んだ。
「馬鹿な!」
 そう叫んで、ハワードはもう三発ほど同じように弾を撃ったが、ことごとく外れて、全部で五つの弾痕をそこら中に作った。狂ったように叫び散らしながら、それでもなお、ハワードは撃ち続けようとしたが、その時、力のこもったその手を弟が抑えた。
「無駄だ、兄さん。弾は後一発。どうせそれも外れるだろう」
「しかし!」
 それでもあきらめようとしない兄に、今度はロイが医者に向かっていった。
 ロイは、ハルを抱えて両手のふさがっているその若い医者の喉もとに刃を突きつけた。
「どうやらただの医者ではないな」
 緊張した面持ちでロイはその刃をそのまままっすぐ、目の前の医者の喉元に向かって突き刺した。いや、突き刺そうとした。
 しかし、刃はものの見事に砕け散り、細かい粉となって地面にさらさらと落ちていった。
「どういうことだ?」
 うろたえるロイをそのまま置いて、医者は三人の大人の間をするりとすり抜けて、暗い路地を明るい街まで歩いていった。
 ハワードを初めとする三人の大人は、何も出来ないまま、ただそこに立ち尽くしていた。
「鉄の」
黙ったまま医者の背を見送っていると、ハワードが静かに声を出した。
「鉄の、結合、密度を、変えられるのは、元素、いや、素粒子でさえ操ることの出来るのは、星のシリンだけだ。それにあの反射神経。戦闘を、知っている。それも、極限の戦闘だ」
「なんだと?」
 頭を抱えたまま震える兄を見て、ロイは、訝しげに尋ねた。
「では、さっきの医者は?」
 その問いに、頭を抱えたまま、ハワードは答えた。
「星のシリンだ。それも、ナリアのではない。もっと、もっと、はるかに多くの戦闘の記憶を持った人間を抱える星だ」